著作権法とAIの親和性

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私が出演した「ピアノ発表会」の、演奏動画をもらったのでSNSに投稿したところ、

「著作権で保護されている音楽のため、一部の国や地域でミュートになっています」

というような表示が現れた。私が弾いた曲は、没後173年を迎えるフレデリック・ショパンが作曲した、ソナタ第二番第三楽章(葬送行進曲)と、エチュード作品10-5(黒鍵のエチュード)であり、いずれも著作権が保護される70年を大きく経過しており、権利は消滅している(著作権法第51条乃至第58条)。

ではなぜ、私の演奏が一部の国や地域でミュートされなければならないのだ。

 

納得のいかない私は、予め弁護士に確認をとった上で、SNSのヘルプセンターを通じて「納得がいかない方はこちらへ」に進む。すると、何らかの申し立てができるページが現れた。申し立ての理由は、

・オリジナルコンテンツ

・ライセンス供与されたコンテンツ

・パブリックドメイン

・その他

の4択で、さらに追加情報として20文字以上のメッセージを入力する欄がある。さっそく「パブリックドメイン」を選択し、送信ボタンをクリックしようとするが、なぜか「送信」の色が灰色のままで先へ進めない。

 

イライラしながら、何度も戻ってはフォームを開き直してパブリックドメインをクリックするも、送信ボタンは灰色のまま。念のため追加情報欄にコメントを入れるも変化なし。

(いったいどうすればクリックできるんだ!)

怒り爆発寸前のところで、私はとある注意書きに気がついた。なんと、追加情報の欄には、20文字「以内」ではなく20文字「以上」の文字を入力しなければならない、と書かれてあった。

こういうコメント欄は、一般的には短めの文章を指定をされる場合が多い。それゆえ、勝手な思い込みで20文字未満の文字数で何度も入力していたのだ。しかし今回は、ウェブ系のコメント欄としては珍しく「20文字以上」を指定しているため、改めて詳細を綴ることに。

「この動画は、ピアノ発表で自らが弾いたショパンの曲であり、作曲者は没後173年が経過しているため、著作権は消滅しているはず」

と、バカ丁寧に嫌味ったらしく説明してやった。この時点で私は、とある可能性にピンときていたからだ。

 

するとなるほど、20文字目を入力した時点で送信ボタンが青色に反転した。これはつまり、短い単語で簡単に済ませるのではなく、ある程度の「正当な理由」を記述することで、AIが自動判定する仕組みになっているのだろう。

さっそく送信ボタンをクリックすると、次の画面に切り替わった。するとそこには、

「申し立てが承認されました(いくつかの音声が復元されました。違反が複数あった場合は、その部分が引き続きミュートされている可能性があります)」

と表示されていた。審査にかかる時間は一秒とかからず、瞬時に私の申し立ては承認されたのであった。

 

(やはり私の見立ては正しかったのだ!)

 

あの「追加情報」欄は、パブリックドメインであることを補足確認するための、必要ワードを入力する欄なのだ。

予想だが、「作曲家の名前」「発表会などイベントの名称」「自らの演奏」などのキーワードに加え、「権利所有者から使用許可を得ている」「完全オリジナル曲である」「これこれこういう理由で公正使用を主張する」というような用語を引き出すことで、AI判定がしやすくなるのだろう。

そこで私は彼ら(AI)を迷わせないように、正当な理由を単純明快に記してやったのである。

 

程なくして、弁護士の友人から「著作隣接権(著作権法第89条)」について補足情報が送られてきた。ここには「録音権・録画権」など、自分の実演を録音・録画する権利などが定められている。

つまり可能性としては、ショパンの作品だから引っかかったのではなく、市販されている誰かのレコードの音源と類似している、と判断されたためではないかと考えられるわけだ。

 

そもそもクラシックは、プロアマ問わず多くの演奏家が長きにわたって表現し続けているジャンル。ましてや発表会レベルとなると、日々どれほどの投稿があるのかなど想像もつかない。

そんな似通った演奏までをも、さらには部分的に切り取ってまで警告してくるAIは、なんというか、非常に優秀だがとてつもなく融通が利かない「堅物野郎」だと言わざるを得ない。

仮に、敬愛するピアニストの演奏を丸々コピーして投稿した場合、果たしてどのような判定をするのだろうか。

 

そんなこんなでミュートは瞬時に撤回された。とはいえ、違反を発見するクオリティーもザルだが、違反から解放される際の判定もザルでしかない、と感じた瞬間であった。

 

サムネイル by 希鳳

 

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