(こういう楽しみ方・・っていうのも、アリなのかな)
わたしの相方は、一応、ブラジリアン柔術を嗜んでいる。とはいえ月に1~2回、遠路はるばる都内の道場へ顔を出す程度なので、「柔術ができる」とは口が裂けても言えないレベル。
しかも、自分に甘くだらしない性格を反映するかのように、全盛期(?)から15キロも太ったため、どこをどう見てもハンプティダンプティと化しているのだ。その証拠に当時、クレー射撃の日本代表だった彼は、アジア大会に参加するべくJISS(国立スポーツ科学センター)にてメディカルチェックを受けた結果、体重75キロ体脂肪率7%という見事なアスリートのフィジカルを披露した(のだそう)。それが今や体重は90キロに達しており、情けないことにすべて脂肪だけで賄われているのだ。
おまけに、その”醜態”は見た目のみならず、国民スポーツ大会の事前健診を受けた際に、
「血圧が高すぎて、とてもじゃないが診断書は書けない」
と、医師からデブの烙印を押される始末。国スポしかりオリンピックしかり、代表選手の中でもトップクラスの怠惰と不摂生を貫くデブ・・もとい相方は、それでも「オレはアスリートだ」と言い張るから不思議である。どこをどう見ても、パンパンに膨らんだ肥満体でしかないのに。
そんな相方の健康というか寿命を心配したわたしは、昨年夏に柔術を始めさせた。射撃と柔術の二刀流・・などとはとても言えないが、15キロの脂肪を落とすための最適な運動として、柔術はもってこいの競技といえるからだ。なんせ、対人競技の中では安全性が高い上に柔軟性や筋力が自然とアップするし、なによりスパーリングで楽しく汗をかける充実感は柔術ならではの特権だから。
とはいえ、柔術のために片道200キロを往復するのは至難の業。その距離に負けて、いつしか来なくなるのでは・・と思ったかどうかは不明だが、ある日の練習後に我が師匠は、相方に対して「一本目のストライプ」を巻いてくれたのだ。
その甲斐あってか、ストライプに恥じぬムーブができるようになりたい・・と、マット運動に精を出すことを誓う相方なのであった。
*
「トライフォース宇都宮、早く行こうよ」
昨年11月にオープンしたトライフォース宇都宮は、相方が住んでいる那須から車で一時間の距離にある。そして「一度、出稽古に行ってみたい」と言っていた相方は、道場のインスタグラムを見ながら、真剣な表情でそう言ったのだ。
(・・そもそも、所属ジムであるトライフォース赤坂にも、この二か月で一度しか顔を出していないくせに、なぜそんな「やる気あります発言」ができるんだこいつは)
相方が放つ“謎のやる気“に驚いたわたしは、訝しげにその真相へと迫った。——確かに、奴の自宅からトライフォース宇都宮は近いが、人見知りでコミュ障のくせに自らそんなことを言うなんて、にわかに信じられない。
だが”謎のやる気”の正体は、意外にも単純で分かりやすいものだった。
「今ならまだ、先輩面できるから」
・・・・・・・。
(白帯ストライプ一本、しかもその一本はお情けで巻いてもらったものなのに、こいつはまさか自分が先輩だと思っているのか・・・?!)
まぁたしかに、オープンから2カ月しか経っていない道場ならば、白帯がメインでストライプもほとんど巻かれていないだろう。だからといって、練習風景を見るや否や「早く行かなければ、先輩面できなくなる!」という、謎のやる気が起こる心理が理解できない。
しかも、ろくにマット運動も出来ない肥満体が先輩風吹かせて出稽古に行ったところで、日頃から練習をしている白帯から冷ややかな目で見られるのは想像に難くない。それなのに、なぜ先輩面をしたいのだろうか——。
(・・いや、これもまた「白帯あるある」なのかもしれないな)
なにごとも始めてすぐは楽しいし夢中になるもの。それがたとえストライプ一本であっても、巻いてもらえた日には嬉しくて誰かに自慢したくなるほど。そんな楽しみ方も、柔術ならではの良さでありモチベーションとなるのである。
そして、あまり日が経ってしまうと「(トライフォース宇都宮の)白帯会員のストライプの本数」が増えてしまうので、なるべく早めに相方を連れて行ってやりたい。だがその前に、頼むからマット運動だけはそこそこ出来るようになってもらいたいわけで——。
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