つれづれなるままに、強打し

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ーー午後4時。

近所のバスクチーズケーキ屋を訪れるも定休日。しかたなく、隣接するチーズスイーツ専門店CASA DE GAZTA(カーサ デ ガスタ)へ入る。

この店は、スペインのバスク地方にある小さな港町・ゲタリアにある、「エルカノ」というレストランで提供される絶品チーズアイスを再現している。シェフが現地で厨房にまで入れてもらい、秘伝の製法を教えてもらったというから美味いに決まっている。

 

さっそく目玉商品の「GETARIAICE(ゲタリアイス)」を味わう。アイスよいうより、なめらかさを極めた冷たいモッツァレラチーズという感じ。舌にのせた瞬間に芯までとろける繊細さとチーズのミルキーなコクは、パクパク食べるコンビニアイスとはレベルが違う。

ショーケースを見ると、これまたうまそうなクッキーが並んでいる。この「チーズサンド」というやつ、食べてみたいなーー。

 

その時、わたしの脳裏にある友人が思い浮かんだ。同じジムで柔術やキックボクシングに勤しむ彼女は、兵庫県・芦屋出身の正真正銘スーパーお嬢様。そしてわたしの餌付けに成功した数少ない人間の一人でもある。

先日も帰省土産に、砂糖醤油味(みたらし団子のソース)の「モチスイーツ」を買ってきてくれた。わたしがアンコ嫌いのモチ好きであることをちゃんと把握しているあたり、さすがとしか言いようがない。

 

いつも餌を与えてくれる彼女に「たまにはお返しをしよう」と思い、早速このチーズサンドを2つ買った。もちろん一つはわたしが食べるためだ。そして徒歩一分の帰宅途中にチーズサンドをペロリと平らげたわたしは、案の定、お嬢様の分まで食べでしまったのだった。

 

(どうせ今日は練習に来ないだろう)

 

 

ーー午後9時。

社長出勤でジムに到着すると、今日に限ってお嬢様がいるではないか。しまった!と後悔するも時すでに遅し。

(そうだ、なにも言わなければいいんだ)

若干の良心の呵責に苛まれながらも「また今度買えばいいや」と思い直し、練習に参加した。

 

スパーリングが始まりゴロゴロ転がりながら汗をかいていると、となりで激しいバトルを繰り広げていた大男の足が、不運にもわたしの顔面めがけて降ってきた。わたしはとっさの瞬発力で丸太のような足を避けた。だがその瞬間、避けた丸太がわたしの足の親指に激突し、突き指をした。

(ぬおぉ!!!)

ーーこんなの交通事故だ!あれは足じゃない、丸太だ!いや、丸太以上の破壊力を持っている武器だ!!

 

しかしスパーリング中はバッティングがつきもの。誰も悪くない。悪いのは「自分の運」だけで。

 

気を取り直してスパーリングを続行。気が利くお嬢様は、ペア同士がぶつからないように「防御マット」を持ちながら周囲へ気を配っている。とその時、わたしが隣りの人とぶつかりそうになり、すかさずお嬢様がわたしたちの隙間へマットを差し込もうとした瞬間、運悪くわたしの目頭にマットの角が突き刺さったのだ!

(ギャーーっ!!!)

「あ、だいじょうぶ??」

しかしながら間一髪で眼球直撃を逃れたのは、これまたわたしの反射神経の賜物だろう。目頭から鼻の根っこにかけて鈍痛が走るが、目が無事ならば問題ない。ヒヤッとしたがとりあえず大事には至らなかった。

 

再び気を取り直してスパーリングを続ける。今度は白帯のかわいらしい女性だ。見かけによらず元気一杯の動きで果敢に攻めてくる。よし、テクニックを使って紫帯の威厳を示してやろうーー。

そう考えたわたしは相手をひっくり返す技を試みた。その瞬間、かわいらしい女性の右フックが、なんとわたしのハナの横っ面にクリーンヒットしたのだ!

(ぐおぉぉ!!!)

「す、すみません!だいじょうぶですか??」

鼻の奥がジーンとする。もちろん、折れているとかそういう怪我ではないが、「鼻を叩かれると戦意喪失する」という意味がわかるような、ジンジンと地味に続く痛みを味わう。

 

するとお嬢様がボソッと一言、

「今日はもうやめたほうがいいんじゃない?」

苦笑いしながらそう忠告してくれた。

 

(たしかにそうだな。さっきからやたらと顔面を狙われている。もし間違って目に当たったらそれこそ人生が終わる。今日はおとなしく帰ろう)

 

 

こうしてわたしのくだらない一日が幕を閉じた。

 

 

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