なるほど、そういうことか――。
わたしは今日、とある秘密の答えを見つけてしまった。これにはかなり自信がある。
(そうだ間違いない。このような理由から、日本人はマスクを外そうとしないのだ!)
*
満員の銀座線車内で、マスクを着けていない人間を探すのは難しい。というか、誰もがマスクを着けている。
目の前のオトコは、耳に掛けるゴムの部分が黄色く汚れている。そんな不潔なマスクをいそいそと着用するとは、もはや何のためのマスクか分からない。
この車内にいる人間らは、不織布のマスクを毎日捨てているのだろうか。ウレタン素材のマスクは、そして布製のマスクは、毎日洗濯しているのだろうか。
少なくとも目の前のオトコのマスクは、不織布のくせに毛羽立っている。つまり、毎日くり返し使っているのだろう。
(しかしこのオトコ、何歳くらいなんだろう?)
髪の毛はオイリーだが黒々としており、毛量も十分ある。だが体つきはだらしなく、腹が出ている。
ヨレヨレの安物スーツに、ショルダー部分が破れた肩掛けバッグは、間違いなく中年のセレクト。
ところが、マスクから見える目元と額には、脂ぎった湿りとは別に「若さ」が滲み出ている。
(いったい、どっちなんだ・・・)
じっとオトコを凝視するが、いかんせん情報が足りない。せめてそのマスクを外してくれたら――。
ここでわたしはハッとした。
車内の乗客らを見てみると、白髪や薄毛、手の甲のシミや痩せこけた皮膚を抜かせば、その人の年齢はよく分からない。
もっと言及すると、オンナは全員美人に見える。それは言い過ぎだが、少なくとも明らかなブスは見当たらない。
そしてこれは、わたしだけが感じていることではないだろう。マスクを着けた己の顔を鏡で見たとき、
「あら、私ってわりとキレイなんじゃ・・・」
とか、
「なんだか今日は若く見えるわ!」
とか、内心ほくそ笑んでいるのではなかろうか。
その証拠に、マスクを外したら予想以上に美人だった、なんてことはない。むしろ「マスク美人」という言葉があるくらい、マスクをしているほうが美人なのだ。
これはオトコも同じである。良くて「イメージ通り」、悪くて「マスク外さないでほしい」というところだろう。
見た目も年齢も、鼻と口元を隠すだけで欺くことができる。こんなマジックがいとも簡単に、かつ、安価で実現できるとなれば、やらない手はない。
――そう、つまり日本人は、新型コロナの感染拡大を恐れて、マスクを着用しているわけではない。
マスクをしている「若々しく美しい己の見た目」を維持するべく、率先してマスクを着用しているのだ!
先日、スパーリングの際にマスクを着けていた女子に、
「息苦しくないの?」
と尋ねたところ、
「苦しいけど、マスク外すの恥ずかしい…」
と答えてくれたことを思い出す。
これこそが本音だろう。
ここ数年、マスクを着けることが当たり前で、マスクを着けた自分の顔こそが「素顔」だと刷り込まれたのだ。
だからこそ、反マスク派の人たちは騒ぐべきではない。日本人の9割はマスクを外せないのではなく、好んで着用しているのだ。
好き好んで顔を隠しているのだから、それを剥ぎとるような真似をしたら、それこそ暴力である。
昨今、ノーマスクで文句を言われることなどほとんどない。
つまりマスク着用者も理解しているのだ。「そこまでマスクに固執する必要はない」ということを。
…そう思うと、現在の日本におけるマスク着用状況にも得心が行く。
なるほど、そういうことだったのか――。
*
これに比べて、欧米人はマスクが似合わない。小顔で彫りが深い目鼻立ちは、男女ともに素顔のほうが美しく魅力的である。
だからこそ彼ら彼女らは、マスクを嫌うのだ。
謎が解けた。
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