べた雪でもサンダルで闊歩する私の秘策

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都内は雪が降っている。しかも、フワフワで華麗なココロオドル雪ではなく、水分を含んでべちゃべちゃの、まるで大根おろしのような雪である。

雨や雪が降って困ることといえば、靴である。わたしはご存知のとおり、年がら年中サンダルしか履かないので、大雨やべた雪の日に外出するのは荒行と同じくらいの覚悟がいる。

幸いにも都内は交通機関が発達しているため、足元の悪い場所を長時間歩かされることは少ない。そのため、自宅と最寄り駅の間さえ乗り切れば、あとは案外どうにかなるのである。

 

とはいえ、これほどたっぷりの大根おろしをかき分けて歩くのは、たとえ短距離とはいえラクな作業ではない。そっと歩こうがゆっくり歩こうが、結果に大差はないわけで、慎重に歩いた分だけこっちが損をした気分になるわけで。

——そこでわたしは考えた。ビルケンシュトックやキーンといった、サンダルタイプの靴しか所持していないわたしが、どうすればこの大根おろしを攻略できるのか・・を。

 

(うむ・・あれしかない)

 

コンビニやスーパーでもらう小さなレジ袋があるだろう。アレのもっとも実用的で効果的な利用方法こそが、その答えである。まずは靴下の上からレジ袋を履き、その状態でキーンやクロックスといった樹脂製のサンダルを履く・・というものだ。

これならば、サンダルは中までびしょ濡れになるが、レジ袋を履いた靴下は無傷でやり過ごせる。さらに、履いているレジ袋が露出するのは、ズボンの裾からサンダルの入り口までのわずかな隙間だけ。

・・ただでさえ人々の注意は地面へと向いており、わたしがレジ袋を履いていようがいまいが、その異変に気付く者はいない。歩くたびにシャカシャカ音がするのは玉に瑕だが、この際、そんな小さなことにこだわる余裕はない——。

 

こうしてわたしは、"足を濡らさないための靴を履く"のではなく、"どれだけ濡れても平気な装備"を整えたのである。

 

(あるものでどうにかする・・これこそが人間の知恵というやつだ!)

 

 

それにしても、都内に住む人間の雪に対する耐性というのは、なんとも脆弱である。よっぽど雪の降らない生活しか送ってこなかったのだろうか。

とはいえ、地方からの移住者がほとんどのこの街で、雪道を歩いたり運転したりするのがこんなにも下手な理由が分からない。

 

たしかに、年に一度あるかないかの降雪のために、わざわざ予算をつけて雪対策をするのはスマートなやり方とはいえない。さらに、タクシーやバスのタイヤもノーマルだろうから、ひとたび雪が積もればもはやお手上げ。

だからといって、スタッドレスタイヤに履き替えるのも現実的ではない。二日もすれば雪の影響など皆無となるのに、そんなことのために費やす手間も費用も無駄だからだ。

 

(そういえば、高校のころは平気で自転車に乗ってたな・・)

わたしの実家は雪で有名な都市・長野。しかも、目の悪い両親は車どころか運転免許証すら持っていないため、どれほど雪が降ろうが可能な限り自転車で通学することを強いられていた。

 

そんなわたしはとある冬の朝、高校の裏にある交差点を自転車で勢いよく曲がった。御多分に漏れず遅刻ギリギリだったため、とにかく滑り込みセーフを狙おうと、雪が踏み固められた路面で体を左へ倒しながら全速力で曲がってやった。

その瞬間、わたしは雪の上を滑って逆側の歩道へと転がった。そして自転車は真っすぐ車道を滑っていき、信号が青に変わったにもかかわらずどの車も微動だにしない・・いや、できなかったのである。

 

(し、しまった・・クソ恥ずかしいじゃないか)

可憐な女子高生が見事なダイブを披露したわけだが、その恥ずかしさと遅刻ギリギリの焦りから、わたしはすぐさま立ち上がると自転車のところへ走り寄った。そしてそのまま自転車を引っ張りながら、部室棟の裏へと逃げ込んだ。

 

それにしても、雪道ならば派手に転倒しても痛くない・・ということを覚えたわけで、それ以来、逆に雪道が怖くなくなったという皮肉な事故である。

 

 

そんなこんなで、明日の都内はどんな騒ぎになっているのだろうか。

たかが雪ごときで翻弄されるとは、さすがは軟弱な都会人ではあるが、出来もしない雪道の運転だけは遠慮願いたいものである。

 

サムネイル by 希鳳

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