冬眠暁を覚えず

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(・・・ヤバい!)

何かの衝動に突き動かされるかのように、わたしは咄嗟に目を覚ました。悪夢を見ていた気もするし、トイレに行きたくなって目が覚めた気もする。だがとくに何かの記憶があるわけではなく、単に目を開いたというだけ。

数秒後、ジワジワと全身が汗ばんでくる。リアルに汗がにじみ出てくる。そんな状況で、わたしは視線の先にある天井を見ながら思った。

 

「冬眠から覚めた」

 

 

満場一致の意見だが、昼寝は気持ちがいい。昼寝という贅沢が許される人間に生まれてよかった。不眠症のわたしは、夜眠れず明け方に目を閉じる。そして夕方から夜にかけて昼寝をするからややこしくなる。

さらに昼寝のほうが深い眠りを手に入れられるため、昼寝はある種「覚せい剤」のような役割を果たしている。

わたしにとって適度な昼寝は、この上なく気持ちいいクスリなのだ。しかし、一時間以上の昼寝は最悪な状態に陥る。夢を見ていようがいまいが、目覚めればドロドロの体に重苦しい脳みそ。手足に鉄球をつけられた囚人のようでしばらく動けない。

 

そんなデメリットしか感じられない「長い昼寝」について、今日、新たな発見があった。

 

どうやら生物は、体温が低い状態が睡眠に適しているらしい。テルモ体温研究所によると「(直腸で計測する)深部体温が低くなるほど、眠りやすさが強くなる」とのこと。人間は特定の皮膚部位から熱を外界に逃がし、体内の温度を下げるとともに脳温も下がることで眠りに入る。つまり、睡眠自体が体温を低下させていると考えられる。

そもそも睡眠中は体の活動が少ないため、昼間に酷使された内臓や脳の疲労回復に充てられる時間。これを一日単位ではなく一年単位でみたとき、この行為はいわゆる「冬眠」にあたる。

 

かつてわたしは、

「普段は家でじっとしていて、月に2回の柔術だけでそのフィジカルを保つとは、まるで冬眠から覚めたクマのようだ」

と褒められたことがある。クマは冬眠中、体温が下がり心拍数がかなり減り「省エネな体」となる。それなのに筋肉は衰えず脂肪も効率的に燃焼されるが、この謎はいまだに解明されていない。

もしこの仕組みが分かれば、寝たきりの高齢者や患者への応用、宇宙飛行士の訓練への応用、また臓器移植や肥満予防への応用が期待できる。そういった意味でも、クマっぽいヒトであるわたしを研究するのは意味があるのかもしれない。

 

そんなわたしが今日、昼寝から目覚めた瞬間に感じたアノ感覚、それはもはやわたし自身が「冬眠動物の名残り」であることを意味する。熊の夢を見ていたわけでもないのに、咄嗟に口を突いて出た言葉「冬眠から覚めた」は、わたしが過去に冬眠動物だったことを物語っているからだ。

そして覚醒してからジワジワと体温が上がり、全身の毛穴から汗が滲んできたとき、一種の漲(みなぎ)る生命力のようなものを感じた。たしかに体は重くドロドロしている。そして暗黒の世界に身を囚われているかのような、不快な重力をひしひしと感じる。

それでもわたしの体は目覚めようとしている、この長く苦しい冬眠から!

 

心拍数が上がり額から汗が垂れる。それに伴いTシャツが全体的に湿り始める。さらには暑さに耐えきれず、スウェットのパンツを太ももまでめくりあげるーー。

この時わたしに宿ったのは、まさに冬眠から蘇ったクマのソウル。

 

あぁ、これぞ生きているという感覚。いや、どちらかというと蘇った達成感か。死んでいるかのように眠っていたわたしは見事に蘇生を果たす。それはまるで長い冬が終わりを告げ、生命誕生の春が訪れたかのようなーー。

 

しみじみと「春」を噛みしめつつ、重たい体を引きずりながら、わたしはトイレへと向かった。

 

 

サムネイル by 鳳希(おおとりのぞみ)

 

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