年をとってよかった・・と本気で思える瞬間があるならば

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ヒトは誰でも年をとる。そして誰だって「老いたくない」と思っている。それでも残酷にも時は過ぎ、また一つ年をとるわけで、どんなに抗っても目を逸らしても容赦なく突きつけられる現実からは、逃れることはできないのである。

それでも、たった一つだけ"年をとってよかった"と思える瞬間があることに、わたしは気がついた。強がりでもなんでもなく、あの時をリアルに過ごしたわたしたちだからこそ、令和の今になってソレを誇らしく思えるのだから。

 

 

お気に入りYouTubeで、「THE FIRST TAKE」という高音質と高画質にフォーカスした"一発撮り音楽チャンネル"がある。運営は大御所・ソニーミュージックで、

「一発撮りで、音楽と向き合う。」

というコンセプトから、無機質な白いスタジオに一本のマイクだけが置かれた状態で、まさに一発撮りで収録を行うのだ。さらに、サブタイトルである"一発撮りで切りとる。今という時間と、今しか出せない音を。"というメッセージが、なんとも刹那的で否が応でも緊張と期待を抱かされるわけで。

 

今年で五周年を迎えるTHE FIRST TAKEでは、今を彩る若手ミュージシャンから往年の名歌手まで、あらゆる世代に愛される歌声を届けてきた。中でも見ものなのは、イマドキの歌手ではなく、20年以上前——ちょうどわたしくらいの世代が、一番輝いていた時代のミュージシャンたちが、歳を重ねてもなお圧巻のパフォーマンスを披露していることだ。

当時、この曲を聞きながら「今が一番楽しい!」と信じていた若かりし頃、年をとった今でも鮮明に思い出せるあの頃の気持ちと、そんな時代を過ごすことができたラッキーに、ちょっとだけ目頭が熱くなるのであった。

 

特別ファンだったわけではないが、カラオケボックスやバイト先でしょっちゅう流れていたため記憶に残っている「ココロオドル/nobodyknows+」など、今改めて聞くと「あぁ、本当に楽しかったな」と、当時の充実っぷりを再認識できるのである。

その要因として、当時はイケイケだったメンバーが年をとり、いい感じのオジサンになりながらも和気あいあいとテイクする姿が、なんとも羨ましい「年のとり方」をしていたからだ。

 

さらに胸をギュッとされたのは、視聴者のコメントだ。

「リリース当時は陽キャの人たちが聞く曲だという感じだったけど、大人になった今、メンバーもしっかりおじさんになってて、楽しそうに歌っているのを見て泣けてきた。エモすぎる」

「朝、保育園行くとき親の車でこの歌がガンガン流れてたのを思い出した。この歌がリリースされた時に高校生として生まれたかった」

「なんだこのオヤジ達。最高にかっこいいな!未来に希望が持てた、ありがとう」

「30代40代の涙腺崩壊不可避」

などなど、当時を懐かしむコメントが多い中、時代を超えた今でも"カッコいい曲"として受け入れられていることに、驚きとともに誇らしさを感じた。

 

そんな多くのコメントの中でも秀逸だったのは、

「一瞬で高校生に戻ったけど、鏡見たら39歳だった」

という一言だ。曲を聞いている自分は若かりし頃だが、ふと鏡を見れば年相応のたるんだ顔が映るわけで、やっぱり「あの頃は楽しかったなぁ」と、過去を懐かしむことしかできないのである。

 

それでも、時を超えて歌は生きているし、ミュージシャンたちも驚くほど若々しい。中には60歳オーバーの歌手もいるが、信じられないくらいに声は出るし張りがあるのだ。爆風スランプしかり、鈴木雅之しかり、長渕剛しかり——。他にも、GLAYや湘南乃風、ポルノグラフィティ、CHEMISTRYなどなど、以前と変わりない姿と歌声で圧倒するミュージシャンばかりで、「これがプロというものなのか」と、ただただ目を見張るばかり。

加えて、当時の歌手は"本当に歌が上手い"ということが再確認できる。歌詞や楽曲のレベルも高い上にボーカルのレベルがこれまた高いことから、「じゃ、いきますか」の一言で、とんでもないクオリティの歌が始まるわけで、この余裕と存在感は実力者ならではである。

 

そんな彼ら/彼女らの全盛期をリアルタイムで見聞きできたこと、そして興奮や感動をリアルに共有できたことは、この上ない財産であり幸運である。そして今でも、「あの時があってよかった」と心の底から思えるのは、わたしが年をとったからに他ならない。

今には今の良さがあり、過去には過去の良さがある。だが、過去の良さを今もなお享受できるのは、ダブルでラッキーだと思わないか——?

 

 

手放したくないほど素晴らしい過去だった・・と打ちひしがれるのは、年をとってから。そう思えるのは、年をとったからなのだ。——若者たちへ告ぐ、全力で生きた過去は必ず、素晴らしい未来を用意してくれると、誓おう。

 

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