オッサン・トランスフォーメーション

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巷ではDX、DXと騒いではビジネス臭のする広告ばかりが目に入る。DXとはデジタルトランスフォーメーションの略だが、多くの人はこの意味を勘違いしている。

「わが社はファックスをやめてメールにした!」

これでDXを完成させたと大喜びの社長に、なんと声を掛ければいいのか言葉が見つからなかった。ていうかファックスって…。まぁいいや。

 

多くの人が考えるDXは、正確には「デジタイゼーション」や「デジタライゼーション」を指す。かりにDXをゴールとするならば、その一歩手前と二歩手前を意味する言葉だ。

前出の会社のように、今まで使っていた「ファックス」を「メールやSNS」などのインターネット経由にしたならば、それこそがデジタイゼーション。アナログ環境をデジタル環境に変換させることが、デジタル化の第一歩といえる。

そして次に、社内での昇給審査を対面で行っていた会社がWeb面接に切り替え、さらに指示やフィードバックを「eラーニング」のようにオンライン上で確認・完結できるようにしたならば、デジタライゼーションが完了する。

 

このように、業務プロセスのデジタル化は生産性の向上へとつながるわけで、これまでの無駄な会議や出張、研修や講義への参加はなんだったんだ!と叫びたくなる変革だろう。

 

そして今となっては「当然のやり方」の先にDXという存在がある。なにも特別なことではなく、わりと当たり前の方向性だと個人的には思うが、

「とにかくDXを取り入れるのだ!」

などと、世の中の流れに乗るべく強引に導入を進めると、逆に業務に支障が出ないとも限らないので注意が必要だ。

 

 

そんな「特別ではなく、ごく当たり前の存在」となりつつあるデジタル化について、デジタルアレルギーの友人の治療をしてやった。30代後半ともなれば、もはや立派なオッサンの仲間入り。そんなオッサンの友人はいまだにガラケーを使っている。そのくせおかしいのが、IT系の仕事に就いていることだ。

システムエンジニアではないが自らプログラミングをする彼は、高スペックのデスクトップとラップトップ、そしてなぜかiPadまで持っている。それなのに、携帯電話はいまだにガラケーという意味不明の時代錯誤っぷり。

「電話なんだから、通話ができればいいんだ」

と頑なにスマホを否定し続けていたが、つい先日、ガラケーを水没させたとかでスマホに変わっていた。そのことについて追及するとかわいそうなので触れずにおいたが、昨日、会食後の支払いで彼がクレジットカードを出そうとカバンを漁る最中に、ボロボロとカバンの中身がこぼれ出た。そしてようやく財布を引っ張り出し、クレジットカードを抜きだすと端末へ差し込むも反応しない。

「あー、カードに傷があると読み込まないことがあるんですよね」

店員が申し訳なさそうに告げる。しかたなく友人は、現金を取り出し支払いを済ませた。

 

(あれほどまでに無駄を嫌う友人が、なぜこのことに関しては無駄ばかりするのだろうか・・・)

 

男のプライドを傷つけてはならないと思いつつも、それとなくスマホ決済について尋ねてみた。

「そのクレカ、スマホにアプリ入れればスマホ決済できるよ」

すると友人はイライラしながらこう質問してきた。

「でも、利用明細は出ないんでしょ?」

なるほど、そこを気にしていたのか!たしかにクレジットカードならば利用明細にすべて表示されている。しかしスマホ決済を使ったことのない友人は、果たして利用明細がどのように管理されるのか、それが分からないがためにスマホ決済への一歩を踏み出せなかったのだ。

「大丈夫だよ、ほらこういう感じで履歴出るから」

私は自分のスマホを見せながら、友人の不安を払拭してやる。すると渋々ながらも、

「じゃあどうやればいいの?」

と、これまで頑なに拒んできた未来への一歩を踏み出したのだ。

 

アプリをインストールし、手持ちのクレジットカードと連携させる。多少の個人情報の登録を経て、スマホ決済の準備が整った。早速、目の前のコンビニで試させてみる。

「く、クイックペイでお願いします」

やや顔を赤らめ、緊張した面持ちで友人は声を振り絞った。店員は表情を変えずにタッチ決済のボタンを押し、クイックペイの準備を進める。

「光ったらタッチをお願いします」

毎日、何百回とこの会話を繰り返しているであろう店員の顔に、生気は見られない。初挑戦の友人だけが震える手でスマホをかざす。

「クイックペイ!」

独特の決済音が鳴り、支払いが完了した。店員はすぐさまレシートを手渡し、次の客をレジへと促した。

 

 

「アンタもさ、クイックペイにしたら?これめっちゃ便利だよ?」

 

翌日、友人は完全にウザいオッサンへと変身していた。スマホ決済デビューホヤホヤ、昨日まではチェリーボーイの分際だったくせに!それが急に、我が物顔でスマホ決済を語り始めたのだ。あぁ、ウザい!!

 

だが、この年になってこんなウザいはしゃぎ方ができるなど、そうあることではない。そういう意味では、彼の人生にちょっとした刺激を与えてやったのだと、こちらも嬉しく思えたりするわけだ。

 

サムネイル by 希鳳

 

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