ライブ配信などしない私が、ライブ配信ソフトを導入するまで

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言いだしっぺの責任というか、できもしないことを「そんなの簡単にできるよ!」と言ってしまったからには、何が何でもやり遂げなければならない。

 

わたしは、YouTubeチャンネルを持つ友人に対して、カメラの台数を増やして撮影することを強く勧めた。それは視聴者として当然の意見であり、せっかくの秀逸なコンテンツを、凡庸なまま埋もれさせるのは「もったいない」と感じたからだ。

しかし、本職がユーチューバーではない友人にとって、複数カメラでライブ配信を行うための「準備」というのは、想像以上に負担だった様子。

 

無論、自らがパソコンオタクだったり、SNSマーケティングが得意だったりすれば別だが、本業が職人系の人間は、得てしてこういったことがストレスになりやすいのである。

それでも、この素晴らしい取り組みを埋もれさせるのは、もったいない以外に言葉が見つからない。よし、ならばわたしがどうにかしてやろう――。

 

ユーチューバーでもなければSNSマーケターでもないわたしは、胸を張り堂々と、

「なら、アタシが設定してあげるよ!」

と宣言してしまったのだ。

 

ここまでは勢いで到達したが、実際、どうやったら複数カメラでYouTubeライブ配信ができるのか、まったくイメージが湧かない。

そんなの当たり前だ。ライブ配信をやったこともなければ、見たこともほとんどないのだから、それでイメージができたら天才である。

 

こうして、デカい口を叩いてしまったわたしは、ガクガク震えながら後輩へ救助要請を送ったのであった。

 

 

「たのむ。クリックするだけで購入できる状態で、配信に必要なアイテムのリンクを送ってくれ」

 

どれだけ無責任で他人任せな発言かは、わたし自身が一番よく分かっている。

だが今回に限っては、わたしのオリジナリティーなど1ミリも必要ない。よって、とにかく専門家の指示に従うのが成功への近道なのだ。

 

デキのいい後輩は、わたしの性質を熟知しているゆえに、クリックするだけの状態で、WebカメラとUBSハブのリンクを送ってきた。――さすが、わたしが見込んだだけのことはある。

そして速攻でクリックした「ブツ」が本日到着したため、それらを持参して友人の元へと訪れた。

 

この先の流れとしては、OBS Studioという無料ライブ配信ソフトをダウンロードし、後はソフトの指示に従い進めていけばめでたく完成・・・と後輩は言っていたが、そんな簡単にできるはずがない。そこだけは自信を持って断言できる。

しかし、偉そうに啖呵を切ってしまった手前、怖気づいては女が廃る。そこでわたしは、後輩をスマホのつながる環境に待機させて、ビデオ通話で指示を仰ぐことにしたのだ。

 

「なんか、インストールできないっすねぇ」

 

恐るべき事態が発生した。友人のパソコンにOBS Studioをダウンロードしたところ、「このMacには対応していません」というポップアップが現れるのだ。

OSは最新だし、リンゴのマーク(Mac)をクリックして、ダウンロードインストーラーも「Apple」の文字があるほうを選んだにもかかわらず、なぜ対応していないのだ――。

 

これだからパソコンは嫌いだ。意味の分からない呪文のような言葉を並べて、素人を門前払いするかのような、一方通行の厳格な態度を示すから。

今回も、MacBook Airで最新のOSという状態にもかかわらず、対応していないMacだと言われては、万事休す。

 

とりあえず、画面の向こうにいる後輩へ現状を伝えたところ、後輩はなにやら調べ始めた。そして一言、こう指示してきた。

 

「ダウンロードインストーラーは、Intelのほうを選んでください」

 

なんと!二つ並んだボタンの上を選ぶのか!?しかし、下のボタンにはAppleと書いてあるが・・・。

 

「それは、Apple Siliconが二行に分かれてしまっただけですね」

 

・・・・。

わたしと友人は顔を見合わせると、すぐさま「Intel」のボタンをクリックした。すると、さっきまで何度トライしても変化のなかった画面が、見たことのないページへと飛んだのだ。

 

「こっちだったのか!!!」

 

わたしと友人は、思わず声を上げて喜んだ。ここまでの小一時間はなんだったのだろうか。なぜ、二つあるボタンのもう一つを試さなかったのだろうか――。

いや、これこそがパソコンに不慣れな一般人の、正しい反応なのである。

 

引き続きパソコン画面をスマホの背面カメラで映しながら、後輩の指示に従い設定を進めるわたしと友人。ときには後輩からの指示を待たずに、「これじゃない?」などと勝手に進めてはやり直すなど、余裕も出てきた。

 

そしてとうとう、カメラ2台を使って配信することに成功したのだ!

 

「これ、オレ一人だったら絶対にできないわ」

 

苦笑しながら友人がつぶやく。それに関しては、わたしも心の底から同感である。

むしろ、わたし一人ならば2台カメラでライブ配信などしないし、それどころかYouTubeチャンネルを開設しようとも思わないが。

 

それにしても、その場で指示を仰げる専門家がいるというのは、なんと心強いことか。

われわれ素人にとって、ポップアップの質問は「恐怖の象徴」である。質問の内容もよくわからないし、進んだところで再び質問が待っていたりすると、もはやストレスで押しつぶされそうになるからだ。

 

さらにパソコン系は、質問の答えを間違えると大変なことになる。意味もわからず「はい」をクリックしたばかりに、予想外の展開となるのを多くの人が経験しているだろう。

それゆえに、われわれ素人は答えたくないのだ。意味の分からない質問には、答えたくないのだ。

むしろ、素人いびりの意地悪な質問などしなくても、最低限でいいからすんなりゴールまで導いてくれよ――。

 

そんなジレンマが、パソコンへの嫌悪感というか、苦手意識を植え付けるのである。

 

 

結局のところ、後輩のおかげでセットアップが完成したわけだ。

しかしわたしのとってのAIは後輩なので、わたしはデジタルトランスフォーメーションを達成し、かつ、見事に活用しまくる上級者といえるだろう。

 

Illustrated by 希鳳

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