(アツッッッ!!!!)
口の中に留めて置くことができないほど熱々のアーモンドラテを、タンブラーに戻すか胃袋に流し込むか迷った末に、わたしはゴクリと一気に飲み込んだ。
——おかしい。いつも通り「ぬるめ」とオーダーしたはず。しかも表面のミルクの温度は熱くないのに、なぜこんなにも激アツなんだ。
口の中だけでなく、のどや食道もやけどを負ったであろう感触が残る。もう少し慎重に啜(すす)ればよかったと後悔するが、今からではどうにもならない。
わたしの粘膜になにが起きたのだろうか。極端に熱さを感知するカラダになってしまったのだろうか。
*
わたしは今日、友人からもらったタンブラーを持って近所のスタバを訪れた。そして、いま流行りの「タンブラー部」という部活動に参加するべく、注文と同時にタンブラーを差し出した。
トールサイズのタンブラーに何を入れようか迷う。とりあえず、いつもの「ホットのトールアーモンドラテ、ぬるめで、ハチミツ4周」をオーダーした。行きつけのスタバなので、店員も皆顔見知り。それゆえ、わたしが極度の猫舌であることも周知済みである。
ついでに、ラテとは別にドリップコーヒーも注文し、マグカップで出してもらうことにした。
ちなみに、これだけは口酸っぱく強調したい「飲み方」がある。とにかく、スタバの店内でコーヒーを飲むときには、絶対に、絶対にマグカップ(アイスならばグラス)で注文してもらいたい。
決して安くはないスタバのコーヒーを満喫するためには、当然ながら容器が重要となる。紙カップにプラスチックのリッドなんかで飲んでいたら、500円のラテも150円程度の価値しか味わえない。
せっかく、ある程度の金額を出してコーヒーを飲むのならば、その価値を余すところなく味わってもらいたいのだ。だからこそ、店内で過ごすならば「マグカップで!」という一言を忘れないようにしてもらいたい。
そしてこの思想はマグカップへと繋がる。テイクアウトだと紙カップにプラスチックリッドが必至となってしまうところを、タンブラーならば救世主となれるのだ。
とはいえ、タンブラーを持ち歩くのは物理的なストレスを抱えることとなり、手ぶら徹底主義のわたしにとっては無用の長物。そのため、これまでもタンブラーを持ち歩くという習慣はなかった。
ところが今回、気を利かせた友人が、フレンチブルドッグの乙(おつ)のイラストとともに、わたしの名前が印字されている洒落たタンブラーをプレゼントしてくれたのだ。
(これは・・・使わないわけにはいかない)
しかも「タンブラー部員」になれば、タンブラー利用による割引がきくため、塵も積もれば一杯のコーヒーになるわけだ。なおかつ、単なるタンブラーならば自宅でしばらく飾って終わりだが、自分のフルネームとフレブルのイラスト入りタンブラーとなれば、「物理的ストレスが!」などと言っている場合ではない。
こうしてわたしは、タンブラー部員としてデビューを果たしたのである。
*
ぬるめに作られたアーモンドラテに、ハチミツを4周かけてもらったカスタマイズドリンクを、いつものように口へと運ぶわたし。いつもとの違いはマグカップかタンブラーかというだけで、当然ながら、そこまで大きな差があるわけではない。
それなのにわたしの口内や喉は、高温のミルクにより粘膜がビラビラになったのである。
これは間違いなく、バリスタがスチームミルクの温度を誤ったのだ。「ライトホット」と伝えるべきところを「エクストラホット」と書いてしまったのだ。だからこんなにも熱いのだ——。
この理屈でほぼ間違いないと思うだろう。だが一つだけ、矛盾があるのだ。それは、ラテ表面のミルクの温度がぬるいのだ。
出来立てホヤホヤを手渡されたわけで、表面が冷めるほど時間は経っていない。それなのに表面がぬるいというのは、つまり、それがラテ本来の温度ということだろう。
それなのに、ゴクリと飲み干した液体は粘膜を損傷させたのだから、どう考えても辻褄が合わない。
(・・・まさか、タンブラーの効果なのか?!)
わたしはすぐさま、マグカップに注がれたドリップコーヒーを口に含んだ。ドリップが熱いのは分かっている。なんせ90度もあるわけで、空気と一緒に吸い込むことで、なんとか70度前後まで冷やすことができるのだ。
——ドリップのほうが、ぬるい。
衝撃的な事実である。なんと、フゥフゥしながら飲んだ熱々ドリップと、普通に飲んだぬるめのラテとで、フゥフゥしたドリップのほうが圧倒的に飲みやすかったのだ。
つまり、ラテの温度が下がっていないということが証明されたのだ。
スタバで「ぬるめ」のラテをオーダーすると、およそ60度のミルクで作ってもらえる。一般的なラテが70度であることからすると、10度も低いわけで熱いとは思わないだろう。
だが客観的に考えると、「60度のお湯」は決してぬるくはない。むしろ、5秒でやけどをするほど、めちゃくちゃ熱い温度なのだ。
そのため、ぬるめのラテを飲むにしても、それなりに警戒しながら啜(すす)る必要があるわけで、なぜ今までは無防備に嚥下(えんげ)していたのだろうか。
(そうか、マグカップや紙カップだとすぐに温度が下がるのか・・)
正解かどうかは分からないが、思うに、タンブラーは温度をまったく下げないのに対して、普段の提供スタイルであるマグカップや紙カップだと、あっという間に温度が下がるのだろう。
だからこそいつもは、ぬるめのラテをゴクゴク飲めたのだ。ところが今日、初めてタンブラーなる特殊容器を使用したことで、ドリンク本来の温度を体感することができたのだ。
(タンブラー部員として、この事実と危険性、いや、感動を広めていかねば・・)
*
とにかく、ホットドリンクをタンブラーで飲む際には、やけどに注意せよ。
コメントを残す