餌付けする友達、餌付けされる私。

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減衰させるには恋愛でもするしかなさそうな、この恐るべき食欲をなんとかしようともがき苦しむわたしは、久しぶりに会ったお嬢さまからダンゴを渡された。

「はい、みたらし団子。賞味期限は明日までだからね」

こうしてわたしは、桃太郎に出てくるキジやサルばりに、12個のみたらし団子で見事に餌付けをされてしまったのだ。

 

お嬢さまはわたしの習性を熟知している。とくに食の好みに関しては、ドンピシャでわたしが喜ぶものを選ぶあたり、「さすが」としか言いようがない。

とくに、東京へご帰還の際にいただく「みたらし団子」と「こがしバターケーキ」は、何個であろうがその日に瞬殺できる代物だ。

こうして彼女は、猛獣を見事に手懐(なず)けるのであった。

 

わたしがお嬢さまを好きな理由の一つに、お嬢さまのお母さまが「理想通りのお母さま」であることが挙げられる。なぜなら、生粋のお嬢さまというのはお母さまもお嬢さまだからだ。

ぽっと出の成り金ババァなど、間違っても「お母さま」を演じることはできない。どれほど着飾って背伸びをしようが、努力すればするほど虚しさと痛々しさが目立つだけ。

 

その点、お嬢さまのお母さまは、ある種「完璧なお嬢さま」でもある。「どのあたりが?」と聞かれても困るのだが、わたしの中にある確固たる"お嬢さまのお母さま像"にピッタリ合致するあたり、お母さまもお嬢さまでなければ成立しないからだ。

そんな「生まれながらのお嬢さま」であり、その後「お嬢さまのお母さま」となった友人の母が、わたしは大好きなのである。

そしてわたしは、遠くで愛娘を気にかけるお母さまのためにも、魔窟・東京における用心棒を買って出たわけだ。——みたらし団子12個で。

 

こうしてわたしは、みなぎる暴食を抑えるべく、決死の覚悟で今日一日を過ごしてきたわけだが、お嬢さまの餌付けによりアッサリと覚悟は覆されてしまった。

だが落ち込むことはない。たかがダンゴ12個、こんなものは食べたうちには入らない。ついついホットケーキを3枚食べてしまったことは伏せておくが、いずれにせよ、ここから巻き返せば「なかったこと」にできるはずだ——。

 

 

「会えてよかった。はい、これ!」

夕方、久しぶりに会った"美魔女B"が、若々しい笑顔で微笑みながら白いビニール袋を手渡してきた。中身は、大きさのわりにズッシリとした重みを感じる「何か」だった。

(・・まるでフランスパンのような手触りだが、とてつもない重量感だ)

いそいそと包を開けると、そこには見事なシュトーレンが鎮座していた。

 

そういえば、かつてわたしが「誤ってシュトーレンを一機食いした話」をしたときに、彼女が

「じゃあ、私のオススメのシュトーレンを食べさせてあげる」

と言っていたのを思い出した。あのときのシュトーレンが、これか——。

グルグル巻きのサランラップを剥がしていくと、シュトーレンの表面にまぶされた大量の粉砂糖がパラパラとこぼれ落ちる。それと同時にリキュールの香ばしい匂いが漂ってきた。

 

シュトーレンとは、14世紀のドイツで生まれた伝統菓子である。クリスマスまでの4週間、毎日少しずつ食べながらイエス誕生を祝う菓子として、今では世界中で愛されている。

表面を大量の粉砂糖で固め、生地には大量のバターが使用され、中身にはドライフルーツとリキュールがふんだんに混ぜられているシュトーレンは、保存料などなくとも長期保存が可能。

 

少し前に「無添加・甘さ控えめ」の栗のマフィンが糸を引く事件があったが、保健所の立入検査で食中毒の原因となる細菌は検出されなかった模様。

だが、現に食中毒の症状で病院へ運ばれた購入者がいることからも、添加物に対する偏った見識は捨てるべきだ。そして、先人たちがどうやって無添加で長期保存を可能としたのか、改めて学び直すべきだろう。

その最たるものがシュトーレンであり、ここまでたっぷりのバターや砂糖そしてリキュールを使うからこそ、雑菌の繁殖や油分の酸化をおさえることができるのだ。

 

そして当然ながら、シュトーレンは恐るべき"カロリーお化け"であり、「薄くスライスして食べる」という習慣からも、一気に食べるものではない。だが包丁のないわが家では、どんなカロリーお化けだろうが躊躇なく齧りつくしかないのである。

さらに現在の暴食モードでは、とてもじゃないが途中でストップするのは不可能。となると、ホットケーキとダンゴを食べた挙げ句に、シュトーレンを一気食いすることに——。

 

(ダメだ。それだけは絶対に、ダメだ・・・)

 

 

わたしの友人は、思った以上に手強い奴らなのだ。

 

サムネイル by 希鳳

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