不要不急

Pocket

 

日曜の赤坂は、ある意味にぎやかだ。

オフィスや飲食店は軒並み閉まっているが、その分、平日ではお目にかかれない「特別なパレード」を鑑賞することができる。

その名も、街宣車。

 

わたしがいるビルの目の前が街宣車の停車場のため、朝から大勢の警察官と街宣車が入れ替わり立ち替わり訪れる。

街宣車自体も種類が豊富で、大きなバス型から小型のワンボックスカーまで様々。いずれもキレイに塗装され、それぞれの主張がギッシリと書かれている。

 

彼らの主張をオブラートに包んでまとめると、

「(中国から)日本を守ろう」

「失った領土を取り戻そう」

「日教組を見直そう」

このような感じか。さほど過激な意見でもないし、むしろここだけ切り取れば至極真っ当。

とは言え、いかんせんその表現の仕方がいただけない。警察官を動員させるようでは「税金の無駄遣い」と言われかねないし、警察だって迷惑だろう。

 

そう思いながら近付いてくる街宣車を見下ろす。巨大な日の丸がペイントされたバスの運転手が、拡声器から怒鳴るように何かを訴えている。

と、そこへガンマイクを掲げた警察官が小走りで近寄る。

さらにビデオを回す警察官が後を追う。

その後も続々と制服とスーツ姿の警察官が現れる。

 

ガンマイクの警察官が、運転手に向かって何かを見せている。騒音計の数値だろうか。

その背後から「拡声機による暴騒音の規制に関する条例により〜85デシベルを超える場合は〜」などと書かれた旗を、2名の警察官がフロントガラスギリギリに広げて見せる。

すると運転席の窓が下がり、横に立つ警察官が敬礼。それに応えるように運転手も敬礼。

 

・・・おや?

 

敬礼後、運転手の声量が明らかに下がる。声のトーンも低くなる。

ーーなんだこの協力的な友好関係は。

 

それからしばらくして街宣車は去った。その後を追うように、警察車両が追従する。

 

まさかの出来レース?

 

おっと、言い方が悪い。

警察は道路交通法第77条第1項第4号に基づき、街宣車が街宣活動を行うための道路の使用を許可している。だからこそ事前に、警察官が現場待機しているのだ。

そして街宣車の運転手もシナリオ通りに、独特な政治的メッセージを叫んでいる。

 

お互いルールを守ったうえで、「最低限の迷惑にとどめよう」という協力体制の元、街宣車の運転手と警察官は、その意思確認のために挨拶を交わすのではないか。

 

「お疲れさまです!」

 

双方敬礼の様子を見て、なんだかほっこりする。

あんな過激で奇抜な演説を大声でぶちかます人相の悪いオッサンが、警察官に声をかけられると素直にウンウンと頷くのだから。

 

「音量でかいよ~」

「あ、すんません」

 

勝手に会話の妄想が膨らむ。

程なくして、霞が関方面から別の街宣車がやって来た。今度の運転手はおだやかではない。巻き舌のべらんめえ口調に、テレビドラマで見るような強面。

 

運転手は勢いよく運転席から飛び降りると、周囲をにらみながら街宣車の前へ出る。男の周りを警察官10名ほどが取り囲む。男、奇声を上げながら両手を大げさに動かす。警察官、両手を下げた状態で胸や腹で男を制そうとする。男、感情をあらわに暴言を吐く。大柄な警察官が男に近づき何かを伝える。男、シュンとなる。

男は街宣車に飛び乗ると、次の目的地へと移動。続いて警察官がバタバタと警察車両に乗り込み、後を追う。

 

ーー終わった。

 

わたしは壮大でリアルな茶番を目撃した。

役者は全員素人ゆえ、臨場感が半端ない。

そしてあの男は調子に乗りすぎたのだろう。台本には書かれていないパフォーマンス=暴言を吐いたところ、警察官に叱られたと思われる。

 

公務員も右翼団体も、ちゃんとしたルールの中で活動をしている。過不足なく穏便に繰り返される過激なルーティンワーク、とでもいうか。

 

そんな「プロ根性」を目の当りした、日曜午前の赤坂だった。

 

 

Pocket

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です