友人に子どもが産まれた。かわいらしい女の子だ。
彼女から妊娠の報告を受けたのが昨年9月。それ以来音信不通だったため、不安と期待と半々で新たな続報を待っていた。
わたしより若いとはいえ、出産適齢期で考えるとすでに後半。音信不通が何を意味するのか、話題がデリケートであるがゆえ首を突っ込むことができなかったのだ。
*
「URABEさん、ですよね??」
人が行きかう骨董通りで突然、声をかけられた。マスクをし、フードを目深にかぶっていたわたしは、一瞬ギョッとした。
そもそも骨董通りで誰かとすれ違うことなど考えにくく、ましてやマスクにフード、わたしだと識別できるのは目元とフォルムくらい。
呼ばれた声のほうに目をやるも誰だかわからない。まさか人違い?
「やっぱりそうだ!久しぶりです~」
いや、間違いなく「わたし」だと断定して話しかけている。そしてしばらくその女性の顔をみているうちに、ようやく思い出した。
ーーあ、友達だ。
あまりに久しぶりだったのと、少しふくよかになっていたため、わたしが知るスレンダーな友人と一致しなかったのだ。だが声を聞けば間違いなく本人。
彼女は仕事中で、何人かのスタッフとクライアントを見送る最中だった。そして仲間を尻目にグイグイと話しかけてくる。
「すぐわかりましたよー、なんかもう見た目というか雰囲気で」
これはとてもよく言われるセリフだ。昨日も広尾を歩いていると、後ろ姿にもかかわらず運転中の車内から発見された。
わたしは特別なフォルムをしているわけではないが、しょっちゅう遠目からでも発見される。
むしろ、コソコソしているとなおさら見つかるから厄介だ。学生時代、遅刻がバレないようにうまく侵入したつもりが、速攻で名前を呼ばれた。
「おまえはコソコソしてると余計に目立つ!」
教師からもそう警告されるほど、コソコソが大胆なのだろうか。よくわからないが、あれ以来コソコソするのはやめた。
とにかく目元しか出ていない格好なのに、よくぞわたしを見つけたものだ。などと感心しつつ、わずかに立ち話をする中で、彼女は重大な発表をした。
「じつはいま、お腹に子どもがいるんです」
それはなんとも衝撃的な告白だった。
彼女はこれまで妊活に励むも結果が出ず、リフレッシュのために長期休暇を取って海外へ行くなど、時間とお金をかけて「子ども」のために尽力してきた。
わたしは夫婦両方とも友人だが、このような繊細な内容は追及できないため、外野はただ見守るしかなかった。
妊娠は病気と違い「その後、調子はどう?」などと気軽に聞けるはずもなく、片やタイムリミットが近づきつつあるわけで、友人として何をどう接したらいいのか分からなかった。
そんな悶々としていたところへこの快挙。
道端での立ち話とはいえ、自分のことのように嬉しかった。「やったな!でかしたぞ!」そんな、身内が言いそうな言葉が口を突いて出た。
わたしの取り得といえば頑丈なこと。ちょっとやそっとの病気や怪我では倒れないーー。
少しだけふっくらした彼女のお腹に手を当てて、とにかく無事に産まれてきてくれ、とありったけの魂を注入した。
絶対にこの世に産まれて来いーー。
*
ーーあれから8か月。
「産まれました!!」
突如LINEが届く。池袋の雑踏の中でわたしは思わず叫んだ。
「やったー!!!」
虫の知らせとでも言うのか、先月末から彼女が夢に出てくることが度々あった。
それでもまたいつか、どこかの道端ですれ違う日まで音信不通なのかーー。気にはなるものの現実を知ることが怖くもあり、ただ待つしかなかった。
しかし今となっては、待った甲斐があった。
旦那の様子を聞いてみる。
「旦那は専業主夫になるべく、着々と準備を進めてます!」
そういえば彼女の家庭の稼ぎ頭は、彼女自身だった。旦那は逆に家庭を守るタイプで、むしろそちらに適性がある。
昔、旦那からこんな話を聞いた。
「彼女と喧嘩した時、僕は家中ピカピカに掃除するんですよ。今日はフローリングを磨いてきました。そしたら彼女が喜んでくれるから」
一流企業で働く彼女と無職の彼。このバランスこそがベストで、崩すべきではない。日本社会の人材配置における、適材適所のお手本だ。
さらに彼女はこう続けた。
「私より旦那のほうが育児が上手いと思うんですよ」
うん、わたしもそう思う。どうせなら得意な人が担当したほうがいい。無理に苦手なことを続けたって、良い結果は生まれない。
やれることをやれる人がこなせばいい。二人で一つが夫婦なのだから。
野次馬ついでに欲をいうと、友人そっくりな男の子も見てみたいな、と冗談まじりで伝える。
「まったく一緒の意見なので、また頑張ります!」
おぉ、なんと頼もしいことだ!
暗いニュースに翻弄されがちな今だからこそ、ゼロイチで何かが生まれる出来事は我々のエネルギーになる。
今度もまた、朗報の続報を待つ。
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