雑魚師匠  URABE/著

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俺はアイツのことを、畏敬の念を込めてこう呼んでいる。

「スーパーザコ」

単語として良い響きではない。だがたとえばサッカーなどの「スーパーサブ」を思い出してもらいたい。単なるサブは控え選手を指すが、スーパーサブはスタメンと同等の能力を持ち、ここ一番で戦略的に投入される切り札のことだ。

 

アイツはかなりの天然だが、その能力が導き出したキャラクターこそが「ザコ」であり、言うなればザコキャラを天然で演じる実力者、スーパーザコなのだ。

 

ニックネームの由来の前にちょっと考えてもらいたいことがある。俺を含むお前らが、いわゆる「お偉いさん」だったとする。総理大臣や都知事あるいは官僚など、「庶民と接する機会がほとんどない人間」という意味だ。

普段の会話といえば、秘書や政治家たちと仕事の話がメイン。さらにはメディアにも目を光らせなければならないため、警戒心から解放されるのは帰宅してからのわずかな時間のみ。昔の友とも疎遠になり、寄ってくるのは利権がらみのハイエナばかり。

 

そんな俺らが、もしも気の置けない誰かとくだらない会話ができるとしたら、どんな人物を選ぶだろうか。もちろん、リファレンスチェックは済ませた上での話だ。

各界の著名人だろうか?いや、それこそメディアの思うツボ。さらにこちらも身構えなければならず疲れてしまう。ならば有名大学を首席で卒業やIQ130などの優秀な人間だろうか?いやいや、それこそ気負ってしまいざっくばらんな話などできまい。

では一体、どんな人物とならば「くだらないバカ話」ができるというのか――。

 

この答えこそが、アイツを表現するのに相応しい呼び名である「スーパーザコ」ではなかろうか。単なるザコではダメだ、スーパーザコでなければならない。

この二つにどんな違いがあるのか?と聞かれても困るが、要は普通のザコであれば俺らも相手にするはずがない。だが最低限会話のできる、つまりリファレンスチェックを通過したザコであれば、心置きなくくだらない話ができる。加えて、秘密厳守で話題の共通性があり、自分語りやオレ自慢をしても恥ずかしくない存在――これこそが、スーパーザコに求められる要素といえる。

 

なぜなら、そこでは建設的な会話がしたいわけではなく、とにかく低レベルなバカ話がしたいだけだからだ。そしてちょっとだけ、自分を褒めてくれればそれでいい。

ましてや俺らは「偉い人」、親しく話すことなど滅多にできない存在なのだから、スーパーザコにとっては願ってもいない大ラッキーといえる。ウハウハ大喜びで尻尾を振ってやってくるだろう。

 

 

「昨日、都知事に呼ばれて飲みに行ってきた!」

「また財務大臣からゴルフに誘われちまった!」

頼んでもいないのに「お偉いさん」との蜜月を自慢してくるアイツ。もはや「ウザい」以外の三文字は見当たらない。

「やっぱオレって、人望が厚いんだろうな」

そんなわけないだろう。だが不思議とアイツの政治家ウケは抜群なのだ。そこで俺は考えた、なぜこんな天然で薄っぺらい野郎が、政治家たちから引っ張りだこなのか――。

 

その結果たどり着いたのが、スーパーザコの境地だったのだ。お偉いさんには彼らにしか分からない苦労やプライドがあるはず。日頃から言動にはナーバスな立場ゆえ、自慢やバカ話など誰にもできない。そんなフラストレーションを解消するべく、選ばれし人間がアイツことスーパーザコだったのだ。

――そう考えると得心が行く。

 

時には自分より下の人間と杯を交わし、人目をはばからず大笑いしたい気持ちは、凡人である俺にもわかる。その際に白羽の矢が立つのは、優秀な人間でも地位や名誉のある人間でも金のある人間でもない。ごく普通のどこにでもいる、自分を愛してくれる口の堅いザコなのだ。

 

(了)

 

サムネイル by 希鳳

 

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