焼肉がもたらすビールの功罪

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「すみませーん、ビール飲めますか?」

 

がらんとした店内から店員が出てくる。

 

「ごめんなさい、酒類の提供はしていないんです」

 

こうして何人、いや何十人の客が、店の床を踏むことなく背を向けたことだろう。

そして数軒先を見ると、道路まで連なる客の列が見える。その店はアルコールを提供しているのだ。

 

色々と思うところはあり、言いたいこともあるだろうが、現実はこれ以外の何物でもない。

 

 

2日連続で会食の機会に恵まれた。

しかも両日とも「焼肉」だったので、わたしにとってはダブルラッキー。

 

この2日間で学んだことは、同じ焼肉と言えども「日本の焼肉」と「韓国の焼肉」の違いについてだった。

 

日本の焼き肉はカルビやロースなど牛肉がメインで、客が自ら肉を焼く形式。

しかし韓国の焼肉は「サムギョプサル」など豚バラがメインで、かつ、店員が焼き上げてくれる。

 

韓国料理好きのわたしからすると、店員が見事な手さばきで調理してくれる韓国式のほうが、見ごたえもプラスされてより美味しく感じる。

 

とにかくわたしは「肉」が好きなので、ただひたすら肉を食べる。

昨日など、クライアントとのミーティングを兼ねた会食だったにもかかわらず、序盤から無言でトングを肉へと伸ばし続けた。

 

和牛特選カルビをそっとつまむと、網の上にサッと敷く。焼きムラが出ないよう、炭の火力に合わせてまんべんなく広げておく。

(ここで会話に耳を傾け、それとなく頷く)

 

続いて、和牛ヒレをつかんで七輪のど真ん中へ寝かせる。まるでプロテインバーのような大きさの分厚いヒレ。6面を炙る必要があるため時間がかかる。

 

ここで同時にホルモンも網へ乗せておく。

ホルモンはブヨブヨした脂を天井に、ツルっとした皮を炭側にして焼くのが基本。

意外と厚みがないため、七輪の端っこにいくつか並べておこう。

 

ここまでくると一仕事終えた感がある。

最初に乗せたカルビをひっくり返しながら、皆さんのほうへ顔を向けて力強く頷く。

 

ーーたとえ話を聞いていなかったとしても、この会議にかける熱量を伝える手段として、力強く首肯しておくことこそが礼儀!

 

そうこうするうちに、カルビが食べごろを迎える。ベストな状態でいただくとしよう。

 

ーーこの一連の動作を繰り返すこと一時間。わたしの胃袋も満足してきた。

 

「追加で注文しますか?」

ウチの優秀なファシリテーターが気を利かせる。

「じゃあ、特選カルビをもう一回食べようかな」

聞かれてもいないのに、わたしが答える。

「××さん、さっき特選カルビ一枚も食べてないですよね?」

クライアントが余計な情報を差し込んできた。

「えぇ。気づいたら肉がありませんでしたからね」

横にいるわたしを睨みながら答えるファシリテーター。

 

こうして第二ラウンドが始まるのだ。

 

 

この店はアルコール提供をしていない。

少なくとも、テーブルについて最初のドリンクをオーダーする時までは、そうだった。

しかし2回目のオーダーの際、店員が小声でささやいた。

 

「内緒でアルコール、いいですよ」

 

回りを見ると、明らかにハイボールやカクテルらしきグラスが見える。もちろん空っぽになったノンアルコールビールの瓶も、大量に並べられているのだが。

 

ーーやはり焼肉といえばビールやハイボールが付き物なのだろう。

 

そんなことを思いながら、わたしは清涼飲料水「ホッピー」をグビグビと飲み干した。

 

 

そして本日は韓国焼肉を訪れた。

 

友人はとにかくビールが飲みたかったらしく、通り沿いの店へ片っぱしから声をかけ、

「ビール飲めますか?」

を繰り返していた。

 

勝手な考えだが、カレーならばビールは要らないだろう。パスタや軽食も、ビールと言うよりは料理を食べる目的で入店するイメージ。

 

だが、焼き鳥や焼肉といった煙がモクモクするような店には、ビールが必要ではなかろうか。

 

ビールを飲まないわたしだが、炎天下で汗をダラダラ流しながらビールを欲する友人に、なんとかしてビールを飲ませてやりたかった。

 

とそこへ韓国料理屋が飛び込んできた。店内を覗くと客でビッシリ埋まっている。

 

「ビール飲めますか?」

「ええ、飲めますよ」

 

タイミング良く、会計を済ませた客と入れ替わりで我々の席が確保された。

 

ビールの友人は、子供のような無邪気な笑顔で額の汗を拭っていた。

 

 

たった一杯のビールで、言葉にならないほどの幸せを感じる人間もいるらしい。

 

そんなちっぽけなことで幸せになれるのなら、なんとか叶えてやりたいものだ。

 

 

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