「立派なあごヒゲが生えてきましたね」
そう言われたのかと思った。
ーーアゴヒゲガ、ハエテキタ?
女子に対して、女子を否定するにあたり、圧倒的な破壊力をもつ単語が、「あごヒゲ」ではなかろうか。
鼻毛、わき毛、すね毛など、いろいろなムダ毛の名称はあるが、もっとも男性的なムダ毛といえば「ヒゲ」だろう。
かつ、「あごヒゲ」といえば、男性の象徴ともいえる。
イスラム圏では、ヒゲのない男性は一人前とは見られない。
また、イスラム教の創始者である預言者・ムハンマドが記した「ハーディス」では、あごヒゲを伸ばすことが推奨され、忠実に実践されている。
日本でも、戦国時代の武将らは多量のヒゲを蓄え、武威を誇示していた。
ヒゲは権力や体力、精力を表す男のシンボルのため、ヒゲの薄い豊臣秀吉などは「付けヒゲ」をしていたとまでいわれる。
ヨーロッパでは、18世紀ころから、地位の高い男性の間でヒゲを蓄えることが流行した。
そしていつの時代でも、ヒゲは強さ、賢さ、勇敢さ、人間的な成熟を表すと考えられている。
ーーということは、私は立派な男性に近付きつつあるということか
*
3回目の脱毛の日。
施術者のお姉さんの言葉に、耳を疑った。
「アゴから首にかけて、けっこうな産毛が生えてますね」
私の脳内では、
「アゴから首にかけて、けっこうなヒゲが生えてますね」
と変換された。
ーー首にまで、ヒゲが生えてきた??
これらはすべて、柔術の影響に違いない。
柔術は道着(ギ)を着る。
ギの襟と首がこすれることで、皮ふの表面を守ろうと、毛が生えてきたのだろう。
アゴは、チョークスリーパー(頸動脈を絞める技)により、相手の袖とアゴがこすれることで、これまた皮ふの表面を守ろうと、毛が生えてきたのだろう。
それ以外、産毛が生えてくる理由など、思いつかない。
「せ、背中はどうですか?」
「そうですね、まぁまぁな産毛がありますね」
ーーやっぱり
柔術は寝転がって戦う競技だ。
つまり、背中が地面に接しており、その摩擦で背中の産毛も増えたのだと推測される。
産毛ごときで、チョークスリーパーが防げるとは到底思えない。
産毛ごときで、背中の摩擦が軽減するとも到底思えない。
それでも日々、産毛らはしぶとく増え続けている(らしい)。
産毛の役割を再確認してみよう。
まず1つは、外気や紫外線、ホコリや乾燥など、「刺激」から肌を守るために生えている。
さらに、保湿効果がある(といわれている)。
私の首やアゴには、アザや擦り傷が絶えない。
そして、柔術における外敵から私を守るため、産毛らの総意として活発に増毛を始めたのだ。
(余計なお世話でしかない)
*
こちらは金を払って脱毛しているにもかかわらず、なぜ、新たに産毛らは生えてこようとするのか。
施術者のお姉さんへ、アゴと首と背中の産毛に強めの照射をお願いした。
私にだって我慢の限界はある。
そう何度も生えてこられては、迷惑だ。
しかし、柔術は明日も明後日も続くだろう。
そうなると、産毛らとの戦いも続くこととなる。
とはいえ、産毛ではないが毛が少なくて困っている人がいるなか、ムダ毛処理に資金投入するとは、なんと贅沢なことか。
などと思いを巡らせながら、つぎはVIO(デリケートゾーン)のムダ毛をやっつける順番だ。
こちらの脱毛が本命であることは、言うまでもない。
Illustrated by 希鳳
大相撲では体毛が濃い力士は稽古が足りないと言われる
体毛が擦り切れるまで稽古しろとの教えらしい
週8日で柔術に励めばエステ要らずだ!
エーーー
実は僕の太ももの一部分だけ今でも左右均等に毛がない
デッドリフトやショルダーシュラッグをするとその部分はバーベルのシャフトで擦れ
毛根までキレイにそぎ落とされていたのだと思う。