素人審査員によるベスボ首都圏大会の講評

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自称・素人審査員のわたしは、本日もめでたくベストボディ・ジャパン首都圏大会の会場へ潜入し、本大会に参戦する三名の友人らに偉そうなアドバイスと檄を飛ばしてきた。

ベストボディ・ジャパンとは、一言でいうと健康美を競う大会である。とはいえ、健康体の一般人が参加して入賞できるほど甘いものではない。大会のコンセプトとして「日本におけるトレーニング文化や身体づくり文化の普及」を掲げているため、審査基準となる筋肉の付き方やバランス、立ち姿や回転する際の挙動など、素人ではとても再現できないような身体美と動作を求められるからだ。

同時に、内面の美しさ——知性や品格といった、垣間見える人間性についても審査基準となっているため、コンテスタントたちは日常生活から高い意識をもって過ごさなければならないのである。

 

そんな恐れ多き"健康美の登竜門"に、誇らしくもわが友三名が挑んだのである。

 

 

一人目は、ブラジリアン柔術仲間でありご近所さんのヨーコ(仮名)だ。モデルジャパン部門へのエントリーで、過去には日本大会で上位入賞歴のある実力者。あふれ出る可愛らしさと若々しさは、まさに"美魔女"を名乗るに相応しいポテンシャルで、ネコのような人懐っこい仕草からも完全に年下だと高を括っていたほど。

——そんな彼女の予選に、わたしは遅刻をした。

予定時刻よりも早めの進行となっていたことや、会場から駅までが微妙に分かりにくかったことから、ホールに足を踏み入れた頃には彼女の規定ポーズは終わっていたのだ・・えぇ、全て言い訳である。

だが幸いにも、ピックアップ審査で名前を呼ばれたため、辛うじて規定ポーズを拝むことができた。「4番!4番いいぞ!」と、審査員席の真後ろで叫ぶわたしの声に気づいたヨーコは、ニコリと微笑んで華麗にターンを披露してくれた。しかし、激戦区であるクイーンクラスはエントリー人数20名という大所帯、しかも日本大会を見据えて各地から猛者どもが集っているため、惜しくもヨーコは予選敗退となってしまった。とはいえ、予選敗退者の中ではトップの完成度だったことは間違いない。

 

お次は、これまたブラジリアン柔術仲間であり、なんと言ってもこのわたしが無理矢理ベストボディへの道へと誘い込んだ、タッキー(仮名)の出番を待った。彼女が出場するのはベストボディ・ジャパン部門で、ヨーコのカテゴリーであるモデル部門と比べると、スリムさよりも健康美を求められる。

高身長で手足の長さが十分ある彼女は、顔つきも品のある整ったパーツでできているため、予てから「ベストボディでトップを狙える器だ」と踏んでいたわたしは、ちょうど三年前の今頃、乗り気ではない彼女を無視して勝手にベストボディの大会にエントリーしてやったのだ。その当時を振り返ると、わら人形に釘を打ち込んでいるんじゃないか・・と疑いたくなるほど恨まれていた気がする。なんせ、ステージに上がるのはタッキー本人なのに、無責任にもその大役を押しつけられたのだから。

しかし、持ち前の根性と向上心、そして何よりも誠実な彼女の性格が後押しして、ベストボディの初舞台から一年で日本大会への切符を手に入れるまでに成長を遂げたのだ。

——そんな彼女の予選を、わたしは見過ごした。

無論、会場付近にはいたのだが、ちょっとコーヒーブレイクを・・とファミマでコーヒーを購入し、近所の美味そうなドーナツ店でドーナツを買い、外の風に当たりながらのんびりくつろいでいた。そして、タッキーの登壇時刻が近づいてきたので会場内へ戻ったところ、なんとステージにはムキムキのオトコどもが並んでいたのだ。

(し、しまった!完全にやらかした・・・)

とはいえ、難なく予選通過を果たした彼女は、最終的に3位のポジションをもぎ取った。これで、もしも"予選敗退"などという事態に遭遇すれば、今度こそ五寸釘を打ち込まれたであろうわたしは、心底ホッとしたのである。

 

そして最後は、最強のツヨカワ女子こと、プロ格闘家で現役のクイーン・オブ・パンクラシストのしーやん(仮名)だ。

神様というのは、なんとも不公平なことをなさるではないか。ずば抜けて洗練された容姿に強靭なフィジカルと柔軟性、どの道を進んでも成功すること間違いなしの美貌と身体能力を兼ね備えた彼女は、総合格闘技でタイトルを獲得した直後に、ベストボディへの参戦を表明した。ちなみに、彼女のカテゴリーはマッスルモデル&フィットネスモデル部門で、筋肉の付き方やスポーティーな筋肉美に主眼をおいている。

とはいえ、こちらも片手間でどうにかなるほど甘い世界ではない。この道一本でやってきた選手らに交じって、ゴリゴリの筋肉をまとった格闘家が戦うにはあまりにも分が悪い。とくに"ウエストのくびれ"はそう簡単に作れるものではなく、ただでさえ体幹が強いしーやんが、果たしてどれほど仕上げられるのか——。

——そんな彼女の予選を、今度こそわたしはしっかりと見届けた。

先の二人の失敗を糧に、今度は会場内で時間をつぶす方法に変えたのだ。この作戦が功を奏して、見事わたしはしーやんの初舞台に檄を飛ばすことができたのである。

 

それにしても、ステージに現れたしーやんの姿は目を奪われるほどの美しさだった。元から図抜けた美貌の持ち主ではあるが、髪型とメイクがさらなる魅力を引き出しており、なによりも見事に整ったフォルムは"圧巻"の一言に尽きる。

そしてベストボディ・ジャパンというのは、単なる筋肉美を競う団体ではなく、程よい筋肉と内面の美しさが審査基準であり、マッスルコンテストとは一線を画す。そこへきて、常人を逸した筋肉量の彼女は、ただでさえ悪目立ちするにもかかわらず、くびれと絞りによって全身のバランスを整えてきたのだ。

ステージ後に間近で確認したが、他の選手とは比べ物にならないほどの分厚い身体なわけで、よくぞここまで滑らかさを維持して仕上げたものだ・・と、逆の意味で驚かされた。それでも、隠すことのできない圧倒的な筋肉量に目がいきがちなところを、表情や仕草、ポージングの華麗さ、コスチュームの色などでうまくコントロールし、見事優勝を果たしたのである。

 

普段から撮影の仕事もこなす彼女だからこそ、ステージで見せた堂々たる笑顔は見る者の目を奪った。さらに、持ち前の体幹の強さが規定ポーズの精度をぶち上げていた。そんなこんなで、初出場とは思えない圧巻のステージを披露したしーやんに、これぞ「持ってるオンナ」という才能を見せつけられる結果となったわけで。

——天は気ままに、二物も三物も与えてしまうのだ。

 

 

というわけで、三名の友人らはそれぞれ異なるカテゴリーで熾烈な戦いを繰り広げた。そしていずれも素晴らしいパフォーマンスで、結果はさておき素人審査員であるわたしからすると、三人とも満点のスタイル・姿勢、動き、表現力だったと評価できる。

なお、タッキーとしーやんは来月行われる日本大会に向けて最終調整に入り、ヨーコは来年に向けてしばしの休養となるが、これからも三人の勇姿を見守るべく、素人審査員も眼を肥やす努力を続けるのである。

 

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