日本が誇る文化の一つに、ウォシュレットが挙げられる。正確には、ウォシュレットはTOTOが商標登録している商品名なので"温水洗浄便座"というべきなのだろうが、一般的にはウォシュレットで通用するくらいに、温水洗浄便座はもはやトイレにとって当たり前の備品となっているわけだ。
飛行機や新幹線のトイレを利用した際に、ウォシュレットが設置されているとそれだけでテンションが上がる。同じ乗車料金を支払って、簡素なトイレを覚悟しつつ入室した瞬間に、ウォシュレットのボタンが飛び込んできた時の高揚感といったら、思わずガッツポーズを取ってしまうほど。
そのくらい、少なくともわれわれ日本人にとってウォシュレットは、日常的であり生活必需品といっても過言ではない存在なのである。
そんな重要な地位を占めるわが家のウォシュレットが、突如、反応しなくなった。
わが家のトイレは数年前、イマドキっぽいタンクレスのスタイリッシュな便座から、タンク付きのリュックを背負ったかのような形状にデチューンされた。理由は、マンションの最上階にもかかわらず、水道の増圧ポンプが設置されていないため、トイレの水流が非常に弱かったからだ。
通常のマンションではこのような手抜き工事は行われないだろうが、見栄っ張りを詰め込んだかのような我がマンションでは、このくらいの"欠陥"はごく当たり前。
空間を広く確保するべく掘られた壁穴に「壁掛け式のエアコン」がはめ込んであったり、フランス製のシャワーヘッドからは6本程度の温水しか出てこなかったりと、見た目とブランドのみを重視したこの部屋は、生活するにはある種のサバイバル要素が散りばめられた、とても生活しにくい箱なのだ。
しかしトイレに関しては、「使いにくい」の度を超えていた。水は毎回二度流さなければならず、その水流の弱さはイライラの源となっていたわけで。
そのため、スタイリッシュなタンクレスを手放すのは惜しかったが、実用性を優先した結果、タンク付きのトイレに交換してもらったのだ。・・それにしても、増圧ポンプすら設置しないとは、トンだ体たらくである。
そして雨の日も風の日も、タンク付きトイレからは潤沢な水が流れ出し、ウォシュレットからも軽快なリズムで水が噴き出していたある日、突如、ウォシュレットがこの世を去った。
異変は、便器のフタを開けたときに気がついた。いつもならば、光センサーの反応で自動的に便器内を洗浄するのだが、今日はシーンとしたままうんともすんとも言わないではないか。
(なんだ?センサーが故障したのか??)
特段気にすることなく便座に座ると、用を済ませたわたしはウォシュレットのボタンを押した。
(シーーーーン)
ビデを押そうがおしり洗浄を押そうが、リモコンの液晶は反応するも便座に設置されたウォシュレットは微動だにしない。オイオイ、嘘だろ?!と、慌てて便器洗浄ボタンを押したところ、こちらは普通に反応するではないか。
これは間違いなく、ウォシュレットのセンサーが故障している——。
トイレを掃除するついでに、便座の根元あたりに妙な亀裂が入っていることを発見したわたしは、その内側にウォシュレットを作動させるためのセンサーが設置されているのではないかと考えた。
無論、わたしがその部分に衝撃を加えたとか、おかしな使い方をしたという事実は一切ない・・ということを、先に断言しておこう。そしてその亀裂部分に着目すると、便座を降ろすと横へ広がり便座を上げると元に戻ることから、内部でなにかが外れてそれが角度によって横へ飛び出たり引っ込んだりするのではないか・・と予想した。
(いったい何が起きているんだ・・・)
便座ごと力づくで横へ引っ張れば、あわよくば取り外せるのではなかろうかと思ったが、それは失敗した場合にとんでもない破壊行為につながることから、流行る気持ちを抑えて断念した。
それから何度か、ウォシュレットのボタンを押したり、便座自体を押してみたりしたが、なんの変化も見られなかった。
それよりなにより、最近の便座洗浄機能というのは一時間・・いや、何十分かに一度、自動洗浄で便器内を濡らしている事実をご存知だろうか。普段、何気なく使用している便器だが、あれがカラカラに乾燥していることはなく、いつだってしっとりと濡れていることに疑問を持ったことはないだろうか?
それこそがウォシュレットの小さな配慮であり、故障して初めてそのありがたさ(?)に気がつくのだから、人間とは本当にバカな生き物である。
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とにかく明日、TOTOメンテナンスへ電話しよう・・・
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