認知論

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「アタシさぁ、すごい衝撃的なことあったんだけど」

友人で美容師の志麻が真顔で言う。

「初めてのお客さんに、『もしかしてSNS、わざとブスに写してる?』って聞かれたんだよ!」

もちろん「ブス」とハッキリ言われたわけではない。実物のほうがかなりイケてるので、あえて控え目に撮影しているのか?という意味での質問だ。

だがこの話を聞いたとき、失礼だが私は大きく頷いてしまった。なぜなら志麻は、本当に自撮りが下手だからだ。

 

少し前に、志麻は自撮りの画像を投稿した。自宅でフィジカルトレーニングを行った後に撮影したもので、彼女の意図としては、

「健康と美容のために、みんなもトレーニングしようよ!」

という呼びかけや、ワタシは元気にこんなこともしているよ、という近況報告を兼ねていたらしい。ブラトップにスパッツ、大胆に披露したウエストはキュッと引き締まっている。さらに腹筋はうっすら縦に割れており、魅力的なトレーニーそのもの。

だが問題はそこではない、志麻の顔だ。無論、表情の意図は分からなくもない。あえてバリバリのキメ顔を載せるくらいならば、臨場感あふれる気だるい表情のほうが自然だろうと踏んだのだ。そしてその狙いも間違いではない。

 

しかし如何せん、気だるさが行き過ぎてツッコミどころ満載なのだ。

 

その投稿を見た私は、すぐさまツッコミを入れた。すると志麻は、

「ウザい顔でしょー笑」

と返信してきた。まさか、わざとこのツッコミをさせるためにアンニュイな表情を作ったとでもいうのか?だとしたら相当なやり手だ。

ほかにも多々ある。彼女が自撮りをした時に限って「ツッコミ顔」になるなのだ。むしろ、わざとブスな顔を作ったほうがまだマシ!というくらいに、なんとも微妙なモヤモヤをフォロワーに与えてくれる。

 

ある日の彼女のインスタを本人に見せながら、私は質問した。

「これって、どういうつもりで自撮りしたの?」

すると志麻はこう答えた。

「えー、この服かわいいでしょ?って感じで」

なるほど、確かにテロップでもそのように書かれている。だが問題はその表情だ。小首をかしげてペロッと舌を出すような、かわいらしい少女風の仕草。

――明らかに不審者、おっと失礼、違和感しかない。

志麻はその日、着用している衣服を顧客から褒められたため、「この服かわいいでしょ?」という嬉しさのアピールがしたかった。だが実際には、かわいい服より志麻の微妙な表情と動作に目がいってしまい、服が可愛いかどうかなど判断できる状況ではない。

 

断じて「ブス」ではないが、確実に微妙なモヤモヤを残す表情なのだ。私はこのような志麻を見るたびに、速攻でツッコミを入れてきた。

「コレ系の画像あげたとき、周りの反応はどう?」

遠回しに他の友人らの評価を探る。

「いいよ、普段よりコメントきたりして」

・・・やっぱり!

「でも、ブスとか言ってくるのURABEだけだけどね笑」

 

なるほど、それはそうだろう。女性に向かって「ブス」などと発言する、デリカシーのない奴はそういない。ましてや友人やサロンの顧客が、ヘアスタイリストに向かって「ブス」などとは、口が裂けても言わないだろう。

 

念を押すが、志麻は決してブスではない。元カレから「ちょいブス」の称号を与えられたとはいえ、それは事実としてブスではないからこその名誉といえる。その前提で私もツッコんでいるわけだが、それにしても微妙すぎる!!!

初めて来た客に「わざとブスに撮ってるの?」と質問されたという、その言葉は残念ながら正しい。なぜ数ある表情の中から、あえてその気だるい顔を選んだのか、問いただしたいくらいだ。

 

しかしこの疑問の答えは、意外にも帰り際に明らかになった。髪の毛を整えてもらった私は、志麻とツーショットで写真撮影をした。そして画像を確認すると、本物よりも可愛らしい笑顔の志麻が確認できる。

「どう?これ」

撮影者の腕がいいんだよ、と自慢したい気持ちを堪えて尋ねる。すると志麻は、

「えー、ブスぅ」

と、目ん玉が飛び出るほど驚きの一言を吐いたのだ。思わず胸ぐらをつかんでユサユサしながら罵倒しそうになったが、努めて冷静に事実を伝える。

「これ、相当かわいいよ?」

すると志麻はとても驚いた様子で「信じられない」と言った。

 

つまり、彼女自身が思う「イケてる顔」というのと、他人から見るそれとが、大きくかけ離れていたのだ。

違う角度から検討してみよう。美男美女問わず、誰もが自らの顔や声に違和感を覚えたり、好きになれなかったりといった経験はあるだろう。そして志麻の場合、この逆の感覚なのではないかと考える。彼女が思う自分のベストと、他人が思う彼女のベストは違うのだ。よって、それを受け入れることもできなければ、自ら選択することもできないのだ。

 

これを受けて私は改めて思った。やはり髪型含むファッションについては、プロに任せるべきだ。他人でありプロであるその人の「目」に委ねることで、自分が思うよりワンランク上の評価を得ることができる。

所詮、自分を評価するのは他人なのだから。

 

サムネイル by 希鳳

 

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