ひでえ席

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新幹線や特急などの指定席を利用する場合、わたしはあえてドア付近の座席を選ぶ。理由は「新鮮な空気が吸えるから」だ。車内も空調により常に空気は循環しているが、出入り口のドアが全開となれば物理的にも大量の空気が入れ替わる。

そして何者かが毒ガスを撒こうとも、車内に充満する前にダッシュで逃げられる。とはいえ、犯人が入って来た時に真っ先にやられる可能性もあるので、そこは注意が必要だが。

 

さらに「飲食物のにおい」というのも、車両中央だと充満しやすい。それらの被害を最小限に食い止めるべく、ドア付近を死守することにしているのだ。

たとえばシュウマイ弁当や酒のつまみのにおいは、異臭ではないが勘弁願いたいものの代表といえる。これは不思議なもので、店頭で嗅ぐ餃子やシュウマイのにおいと、車内で嗅ぐそれらのにおいは、まるで別物のように美味さが半減する。やはり雰囲気によるものなのだろうか、たとえ自分の弁当だとしても、店頭で目を輝かせていた「あの美味さ」はもはや消えているわけで。

例えるならば、何の変哲もない塩むすびを大自然の中で食べると、やたら美味く感じる「あの効果」の逆バージョンとでもいおうか。

 

とはいえ、弁当ならば食べ終わればにおいも終わるが、酒のつまみは厄介だ。ビーフジャーキーやキムチをつまみながら次々と缶を空けるその間は、ずっと「おつまみ」が開け放たれた状態となる。そして酒のお供であるつまみはチビチビと口へ運ばれるため、いつまでたっても終わらない。

ましてや仲間との会話が弾んだりすれば、チューハイは減ってもつまみは減らず、ひたすら野太い声とおつまみの独特なにおいだけが放たれる。

(そのキムチ、早くフタしてくれ!)

強く願えども叶わず。なんならわたしが食べてやろうか?と進言したいくらいだが、現実的に不可能。よって、窓際に缶チューハイを何本も並べるオッサンを見ると、殺意が湧いてくるのも仕方ないだろう。

 

わたし自身、前後に人がいないほうが気が楽なのも事実。できれば自分の前は壁であってほしい。足元の広さを確保できることと、リクライニングされない安心感からか仕事が捗る。時には背後からカップルのイチャイチャが聞こえたり、行儀の悪い子どもが背もたれを蹴ってきたりというリスクをはらむが、それでもまぁフロントが開放的なほうがいい。

 

このような理由から、指定席ならば最前列か最後尾に座るのがマストのわたし。たとえば新幹線は自ら座席が選べるし、横須賀線・総武線快速のグリーン車ならば、指定券を購入すれば空いている席へ自由に座ることができる。

つまりわたしの意志で座席を選ぶことができるのだ。

もしもお目当ての場所に座れなかったとしても、なんら文句はない。なぜならすでに席が埋まっているからだ。こんな当たり前のことで怒るほど、バカでも短気でもない。

 

だが、とある鉄道の特急で、わたしは見ず知らずの乗客に包囲された席をあてがわれた。お目当ての最前列がガラ空きだったにもかかわらず――。

 

 

その駅員は、わたしが行き先を告げる前にすでに4号車の4Dをタッチしていた。それを見たわたしはすかさず、

「あの、入り口付近の座席をお願いできますか」

と告げた。すると駅員は一瞬固まってからこう返事をした。

「4号車の若い数字の席でいいですね?」

わたしの位置から、4号車のパネルのどちら側が「若い数字」なのかは確認できない。だが前方も後方もいずれの席も空いている。つまり、この8席のどれかをタッチし直すのだと理解した。そこでとりあえず「はい」と答えた瞬間、駅員は素早く発券した。

(え?座席の変更、した??」

あまりの速さに確認できなかったが、手渡された特急券には「4号車4D」と書かれている。

(4号車の若い数字って・・・)

 

だが周囲に乗客がいないのならば、必ずしも最前列を死守する必要はない。そこで指定された車両のドアの前に立つ。

するとドアが開くまでもなく、入り口から3番目、4番目、5番目に乗客の頭が見える。ちなみに1番目、2番目は空席。それでもゆっくりと近づいてみると、わたしがあてがわれた4Dと、その隣りである4C以外の10席が埋まっていた。年頃や服装からして、2人ペアで5カ所に座っている様子。全員、弁当を食べたりビールを飲んだり、楽しそうに談笑している。

 

――なぜコロナ禍に、なぜまん延防止等重点措置が適用されている今、わたしはこの車両の超過密エリアに座らされなければならないのか。

『車内ではマスクをつけて、会話はお控えください』というアナウンスが空しく響く。

なぜこれほどまでにガラガラの車内で、なぜあえてここなのか。そして前方も後方も空席にもかかわらず、どうしてわたしはドア付近の席を売ってもらうことができなかったのか。

 

この鉄道は毎回そうだ。こちらが座席の希望を伝えないかぎり、必ず中央付近をあてがわれる。しかも前後左右に乗客がいたとしてもお構いなしで。そして他の車両が空いていても、なぜか一定の車両に詰め込まれる。挙句の果てには、ドア付近を希望するとあからさまに嫌な顔をされる。

返事もせず、タッチパネルを荒っぽく叩いて発券されたこともある。

今回のように、希望しても無視して密の集団に突っ込まれたこともある。

 

なぜ乗客が、駅員の機嫌をとりながら座席を購入しなければならないのだろうか。そんなことなら自動券売機を設置してくれたほうが、100倍気分よく乗車できる。

ちなみに車内で乗務員に尋ねたところ、

「駅ごとに販売する車両を持っているんです。それでまずはそこを埋めようとしたのかもしれません」

とのこと。たしかに某駅では4号車、またある駅では2号車を優先的にあててくる。もしかするとそういった裏事情があるのかもしれない。

 

ただいずれにせよ、こちらも駅員も嫌な気分になる筋合いはない。駅員サイドになにか理由があるにせよ、空席を指定しているのだから購入させてもらいたい。

 

そんなスッキリしない気分のまま、一人帰路につくのであった。

 

サムネイル by 希鳳

 

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