「スクープ!雇調金不正受給疑惑」の破片

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ーーあぁ、言葉ってすごいな。

と呟かずにはいられない見出しが目に留まる。

 

先月半ばに配信された記事で、雇用調整助成金を過剰受給したとして、西武ホールディングス(HD)傘下の西武ハイヤーがやり玉に挙げられた。

時事通信は「雇調金を過剰受給」、NHKは「雇調金の一部 会社の特別利益として計上」、日テレニュースでも同様のタイトル。

 

しかし、ダイヤモンドオンラインは穏やかではなかった。

「西武グループで雇調金『不適切受給』疑惑!手口の全貌【スクープ】」

見出しを見た瞬間、社労士であるわたしは恥ずかしくなった。この「スクープ」という言葉に歯が浮く。

 

記事を書いたライターの名誉のためにも、多分これは「問題提起」としての記事であり、不正(不適切と書いているが)を暴く目的ではないのだ、ということにしておこう。

でなければ、これはさすがに悪意を感じずにはいられない。

 

ここで登場する雇用調整助成金、通称「雇調金」とは、

「新型コロナウイルス感染症の影響」により、「事業活動の縮小」を余儀なくされた場合に、従業員の雇用維持を図るために、「労使間の協定」に基づき、「雇用調整(休業)」を実施する事業主に対して、休業手当などの一部を助成するものです。厚労省/雇用調整助成金新型コロナウイルス感染症の影響に伴う特例より引用

このような目的で国から企業へ助成される金だ。

 

本来、受給の難易度が高い助成金にもかかわらず、現在は「緊急対応期間」という名の元で、時限的に特例措置(要件緩和)が敷かれている。

たとえば助成率が10/10(100%)であったり、支給額の上限が一人あたり15,000円/日であったり、諸条件はあるにせよ既存の雇調金制度からすると、驚くべき「緩さ」の内容となっている。

 

この「支給額の上限」が高いか低いかは労働者によるが、これだけは覚えておいてもらいたい。

「雇調金の助成額単価は、個々の賃金額によるものではなく、企業ごとに一律で決まる」

ということを。

 

算出方法は企業の規模によって異なる。例えば小規模事業主であれば「実際に支払う休業手当の総額」によるし、それ以外の企業では「前年度、雇用保険被保険者に支払われた賃金総額と年間所定労働日数を基に計算」または「前年度の所得税徴収高計算書の支給額と人員、年間所定労働日数を基に計算」となる。

 

この「前年度に支払われた賃金」には、賞与や残業代なども含まれるため、コロナによる休業で支払われる「休業手当」の算出方法と比べると、普通に考えて差が出る。

 

休業手当の計算方法は、直近3か月の賃金総額を暦日数で除するが賞与は含まれない。

ましてや歴日数ということで、公休日も含めて「平均賃金」を算出することとなる。

 

分かりにくいので補足をすると、所定労働日数とは公休日など休日を除く労働日数のことを指す。そして暦日数は暦(こよみ)の日数のため、週休2日の企業ならば所定労働日数は「22日」、歴日数は「30日や31日」などとなる

 

この「日数」を分母とし、月給30万円の人で仮に計算をしてみると、

✅30万円÷22日≒13,637円(所定労働日数・・・助成額単価の計算方法)

✅30万円÷31日≒9,678円(歴日数・・・休業手当の計算方法)

ということで、日額4,000円近い差が出る。

 

さらに休業手当は「平均賃金の6割以上」と定められているため、9,678円の人ならば5,807円を支払うことで足りる。

よって、休業手当の額は必然的に低くなり、助成額の算定となる金額は高くなる仕組みになっているのだ。

 

ーー飲み込みの早い人ならば、すでに謎は解けただろう。

 

もしも一日の休業手当の額が、助成額単価よりも低い人ばかりを休業させた場合、企業が受給する助成金額は必然的に上がる。

 

そしてこれは不正でも不適切でもなんでもない。これが決まりで、これが法律なのだ。

逆に、休業手当の額が助成額単価よりも高い人ばかりを休業させた場合には、企業側の支払いを100%補てんすることはできない。

 

記事に書かれた一文、

「この差額は、国に返金されていないままである。」

これはある意味当たり前で、見方によっては恥ずかしい表現ともとれる。

 

雇調金の算出方法が正しい前提で、かつ、計算方法などの予備知識を踏まえた上で記事を読むと、「悪意を感じる内容」と捉えられても仕方がない。

固定的賃金(基本給など)が低く、歩合給や残業代が高い労働者などはなおさら、助成額単価と休業手当との差が開くのが現実。

 

無論、この部分だけに着目した個人的な意見のため、その他の記事内容については一切不知とする。

だがタイトルで釣ろうとするあまりに、「手口の全貌」だの「スクープ」だの安っぽい言葉を並べられたことに、社労士としては一抹の不満というか憂いというか、ずいぶん舐められたもんだという印象を受けた。

 

そのくらい、雇用調整助成金という制度は奥が深く、殊に、助成額単価の計算方法などは一般的には理解し難い内容なのだ。

とはいえ、悪意を持って不正受給を試みる輩がいるのも事実ゆえ、コンプライアンスという倫理観の重要さについて、改めて考えさせられる記事ではあった。

 

 

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