幻になりかけたブドウ

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昨日の話だが、わたしは西武池袋線の特急ラビューに、頂き物の高級ブドウを置き忘れて帰宅した

 

その事実に気づいたのが夜分だったこともあり、忘れ物センターの営業時間は終了していた。

そこで本日、朝イチで電話をかけたのである。

 

昨夜はあまりのショックに狼狽していたが、じつは内心、さほど焦ってはいなかった。

その理由として、特急ラビューの終点である池袋駅において、忘れ物の確認をしないわけがないからだ。

座席や荷物棚を隈なくチェックし、忘れ物があれば必ずや保管するはずである。そのため、十中八九ブドウは保管されると確信していた。

 

池袋駅のホームは折り返しの特急に乗車する客でひしめいている。そんな彼らを乗車させる前に、清掃員らが車内点検を済ませてからゴーサインとなるわけで、わたしのブドウを見逃すはずがない。

さらに好都合なのは、西武線の遺失物の保管場所が池袋という点だ。駅構内ならば、保管場所までの移動距離も少ないため、ブドウが傷つくこともないだろう。

 

滅多に使わない荷物棚に高級ブドウを置き忘れたことは痛恨だったが、それでも不幸中の幸い。確実に発見されるであろう終着駅と、特急車両という特殊性とのおかげで、明るい気持ちで忘れ物センターへ電話をかけたのである。

 

「9月16日午後6時24分、西武秩父発の特急ラビューの4号車15番A席の頭上にある荷物棚に、茶色い紙袋に入れた2房の高級ブドウを置き忘れました」

 

活舌よくハッキリと明確に詳細を伝える。するとオペレーターのお姉さんは「少々お待ちください」と言って保留にした。

一分後、お姉さんが戻ってきた。

 

「大変申し訳ありません。ブドウの忘れ物はありませんでした・・」

 

そんなはずはない。先に述べたとおり、一般車両ならまだしも、わたしが乗っていたのは特急車両である。

シートの向きを進行方向に直したり、ゴミやトイレの清掃をしたり、そして当然のごとく忘れ物のチェックをしたりするわけで、あれほどの大きさのブドウを見落とすはずがない。

 

「え?・・折り返しの前に車内点検するよね?その時に見つからなかったってこと?」

 

ちょっと呆気にとられつつも質問をするわたし。するとお姉さんは再び「少々お待ちください」といって保留にした。

そして一分後、

 

「申し訳ありません。やはりこちらにはブドウの忘れ物の届出はありませんでした・・」

 

と、済まなそうに謝られた。

 

「もしかすると、荷物棚の奥にしっかりと押し込んだせいで、掃除の人が紙袋を見落としたのかもしれない。もう一度、荷物棚を確認してもらえないかな?」

 

どうしても納得のいかないわたしは、無理を承知で再確認を依頼した。すると彼女は何かに気づいた様子で、「少々お待ちください」と言ってその場を離れた。

そして30秒後、やや明るい声でお姉さんが話し始めた。

 

「ありました!池袋駅で、茶色い紙袋を保管しているとのことです」

 

そりゃそうだろう、あるに決まっている。だがなぜ、最初の時点で該当しなかったブドウが、今さら見つかったんだ?

その「からくり」が知りたいわたしは、お姉さんに詳細を尋ねた。

 

「じつは最初、ブドウ、つまり果物の忘れ物で検索したんです。すると該当なしでした。しかし今、紙袋というワードで検索したところ、ヒットしたんです」

 

なんとも驚きの回答である。

たしかに荷物棚に置いたのは紙袋だが、その中身は手に取ればすぐに分かる、2房のブドウである。それを、忘れ物の名称として「紙袋」と登録するのは、果たして正しいのだろうか?

 

バナナやミカンならば、ダイレクトにそのまま置き忘れる可能性もあるだろう。だが一般的な果物は、持ち運ぶときには袋や箱に入れるもの。

では紙袋の中身がケーキや生ものだった場合、それでも忘れ物は「紙袋」だからと、常温で保管するのだろうか?

 

クレーマーになりたいわけではないし、そもそもブドウを忘れた自分が悪いので偉そうなことは言えない。だが、忘れ物の登録名称として「紙袋」は、さすがに間違っているのではなかろうか。

 

様々なワード検索をしてもらったおかげで、わたしのブドウは見つかった。しかし、もしもあの時わたしが粘らなければ、もう二度とブドウと対面することはなかった。

さらに「紙袋」として保管されているブドウは検索しても出てこないわけで、保管期限である3日が過ぎれば廃棄される運命。そんな惨い結末も、さすがにないだろう。

 

紙袋の中身が見えないように閉じられていたのであれば、中身がブドウかどうかは確認できない。

だが口は大きく解放されており、手に取った瞬間に「ブドウだ!」と分かるような状態の忘れ物を、「紙袋」として登録してしまったら、すれ違うに決まっている。

 

西武線の忘れ物に関するレギュレーションは、かなりしっかりしているのだと思われる。そのため、外観重視で「紙袋」と登録したことも想像できる。

ならば今後は、複数検索ができる仕組みにしたらどうか。

今回の件ならば、「紙袋」と「果物」と両方に登録ができれば、どちらかの検索で引っかかる。仮に段ボール箱の忘れ物であっても、中身がリンゴだと確認できるのならば、「箱」と「果物」あるいは「リンゴ」のいずれも登録できれば、確実にヒットする。

 

事実、忘れ物を保管してもらっているのに該当がないからと、みすみす廃棄処分となるのはもったいなさすぎて見過ごせない。

 

とりあえず、我がブドウたちの安否確認ができたので、さっそく回収に向かうとしよう。

 

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