完全失業者寄りの非失業者、ハローワークに現る。

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ほとんどの人が忘れていると思うが、私は社労士だ

 

見た目からして士業ではないこと、顔つきや髪の毛の色は輩(やから)、ガタイの良さと服装は格闘家。

今に始まったことではないので気にも留めないが、社労士である私は本日、都内の某ハローワークを訪れた。

 

 

ハローワークの失業者フロアへ入ると、そこにあるはずの発券機がない。

目的の窓口の番号を押すと、数字が記された紙っ切れがペロっと出てくるアレだ。

 

しかたなくフェイスシールドにマスク姿の、元・オネーサンに話しかける。

「社労士ですが、ちょっと職員の方にお話を伺いたいのですが」

すると元・オネーサンは、

「社労士の方でもね、この求人シートを記入してカードを作ってからでないと窓口へは案内できないのよ」

 

(・・・)

 

しかしこの手の女性は意思が固いゆえ、論破するのは困難。

そこで「前回はよかったんだけどな作戦」を敢行。

しかも前回の窓口番号や職員の名前まで挙げ、臨場感てんこ盛りで差し出す。

 

「あらそう、前回よかったのなら、今回もいいかしらね」

 

(そーだそーだ)

 

すると元・オネーサンは自ら番号札を発券すると、私に手渡した。

「呼ばれるまでそこでおとなしく待っていてね」

 

さすがは年の功。

私がおとなしく待てないタイプだと、秒で見破ったわけだ。

 

 

30分が経過するも私の番号が呼ばれない。

元・オネーサンの目を盗み、空いている求人相談窓口の女性職員の席へ滑り込む。

 

「私、社労士。怪しくないから」

 

なぜこんな挨拶をしなければならないのか、自分でもナゾだ。

女性職員は特に驚いた様子もなく、あらどうぞ、と椅子をすすめる。

 

「ぶっちゃけ、コロナで失業者は増えてるんですか?」

単刀直入に尋ねる。

「ええ、この一年でものすごく増えたわ。ココ(求人相談)がこんなに繁盛することはなかったもの」

さすがはベテラン、言葉に淀みがない。

 

他に変わったことは?と続ける。

「事務系の求人がかなり減ったわね」

(そうか、事務員という存在は減りつつあるのか)

 

とそこへ元・オネーサンが近寄って来たので、素早く退散。

 

ふと目が合った若い女性がいる、求職者だ。

ツカツカと彼女へ歩み寄り、唐突に尋ねた。

「私は怪しくないんだけど、なんでハローワークで職探しするの?」

若い女性は一歩後ずさりしながらも、

「家にいるとおかしくなりそうなんで」

と答えた。

なるほど、そういう理由でわざわざここまで来るのか。

 

不運にもその後ろに立っていた、化粧映えする女性にも話しかける。

「なんでわざわざここまで来るの?」

「外へ出ないと置いてかれる気がするんで」

なるほど、だからバッチリメイクなのか。

 

するとその後ろにいたひ弱そうな男性が、覚悟を決めた表情で自ら私の前に立った。

「僕も同じです。ずっと家にいたらおかしくなるんで」

もはや私は、街頭調査員か何かと勘違いされている。

まぁとにかく頑張ってよね、と軽く肩を叩き彼らを送り出す。

 

 

番号を呼ばれた私は、ようやく目的の窓口にたどり着く

ここは「職業訓練」の相談窓口。

 

社労士であると前置きした上で、

「どうですか?コロナで入校希望者増えました?」

これまでと同じ質問を投げかける。

 

「めちゃめちゃ増えましたよ!」

ノリの良い職員は喜んで話し始めた。

「これ見てくださいよ、一目瞭然」

そう言いながら、職業訓練の応募者数と倍率が記載された一覧表を開く。

 

競争が激しい科目は10倍を超えている。

昨年度までは1倍を超えるものが少なかったのに、今年度はほぼどれも高倍率。

しかも、ウェブ系の科目が大人気だ。

 

逆に不人気なのは、旅行観光サービスや経理、営業系の科目。

まさに今のご時世を反映している。

 

職業訓練は毎月開講しているが、今月からは「AI入門科」なるコースもできており、民間委託業者も必死なんだなと実感する。

 

こんなに豊富なコースが用意されているんじゃ、さぞかし殺到するんじゃないですか、と振ると、

「だけどね、失業者でないとダメだから」

そうだった、これは再就職支援のための職業訓練であり、自身のキャリアアップが目的ではない。

 

とはいえ、ズルをする訓練生がいないとも限らない。

ましてや雇用保険被保険者でなければ、就労実態など確認できないわけで、本人が「無職です」と言ってしまえば知りようがない。

 

学校はほぼ毎日、月曜から金曜まで通う必要がある。

つまり仕事のある人が訓練生になることは、通常難しい。

 

ところが昨今のコロナ事情により、時間的な身体拘束のない社会が実現しつつあり、ズルをすれば「失業者」を偽れなくもないのではないかと不安に思う。

 

見た目が失業者っぽいとは言え、私は社労士なので不正行為もその助長も当然できない。

だがもしも私が失業者だとしたら、何らかの技術を身につけたいと思う。

 

そうだな、今度は熟練溶接工のような立派な職人になりたいな。

 

 

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