私は末端の現場作業員である

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私は、建設現場で汗を流す現場作業員だ。

そして、私の下には部下も後輩もいないので、私が末端の作業員だ。

 

日々、おっかない親方の指示を受け、現場作業にまい進している。

 

 

得意な作業は「アーク溶接」だ。

アークの温度はおよそ5,000~20,000度という、「高温」などという言葉では耐えられない温度となる(ちなみに、鉄の融解温度は約1,500度)。

死と隣り合わせの灼熱地獄での戦いだ。

そういう意味では、単なる作業員というよりも「職人」だろう。

 

アーク溶接は奥が深い。

もはや芸術の一端を担っている。

 

友人で ”アーク溶接の魔術師” と呼ばれる男がいる。

彼は米軍の戦闘機や潜水艦を溶接するほどの、スゴ腕の持ち主だ。

 

アーク溶接の真骨頂は、分厚い鋼鉄が芯から溶接できているかどうかを、感覚で感じ取ることにある。

私レベルでは無理だが、”魔術師” ともなるとそれが分かるのだそう。

 

緊急かつ重要かつ秘匿性の高い作業の場合、魔術師が溶接した直後に、レントゲン撮影が入る。

そこで深部まで溶接できているかを確認し、次の工程へ進む。

 

これはわずかなミスが命取りとなる。

その「命」は、戦闘機や潜水艦で任務を遂行する兵士たちの命も当然のことながら、”魔術師” の命も危ないだろう(以下自粛)

 

ミスを見逃すまいと、何人もの上層幹部に囲まれ、ものすごいプレッシャーのなかで粛々と溶接を行う。

この時のメンタルへのダメージと言ったら、筆舌に尽くしがたい。

 

もしレントゲン撮影をして溶接が不十分だった場合、それはもう二度と会えないことを意味する(かもしれない)。

 

 

そんな命がけの現場になど、入るはずもない末端職人の私。

先日、別の現場から助っ人の依頼があった。

 

アーク溶接ができる作業員がほしい、ということで、私に白羽の矢が立ったそうだ。

よくよく聞いてみると、大元の発注者(施主)は国(国土交通省)とのこと。

つまり、デカい仕事だ。

 

今回の施主の下には当然、大手ゼネコンが入っている。

その下にはサブコン、さらに中小零細の設備・施工会社などを介し、末端の職人へとつながっている。

 

大まかな作業予定を見ると、比較的余裕のある工期日程だった。

そこで私は、本来の現場と並行して進めることにした。

 

 

しかし待てど暮らせど、溶接作業指示書が出ない

 

私の直上の超孫請け施工会社に尋ねると、

「上からの指示待ちだ」

とのこと。

 

(おいおい、納期迫ってんで)

 

 

アーク溶接にはいくつかの種類がある。

代表的なもので、被覆アーク溶接、ティグ(TIG)溶接、マグ(MAG)溶接、ミグ(MIG)溶接などがある。

また、それぞれの溶接法によって用意するものが異なる。

 

そのため溶接作業指示書には、溶接機の種類、溶接棒の選定、溶接条件、予熱、溶接、仕上げ、外観、溶接後熱処理、非破壊検査等についての「指示」が記載されている。

 

このレギュレーションに沿って作業を進めることが一般的であり、ミスやトラブル防止にもつながる。

 

が、そのレギュレーションが来ないのだ。

 

 

私の直上の施工会社も哀れだ。

その会社のさらに直上の施工会社との関係があるため、不義理を働くこともできない。

 

そしていくつかの孫請け会社を遡ると、サブコンにたどり着く。

サブコンとゼネコンの親密度は、いわずもがなズブズブ。

つまりゼネコンの指示なくしては、それ以下の大所帯は、一切、自発的に動くことができない。

 

もし勝手な行動をとり、ゼネコンの怒りを買ったら大変なことになる。

 

末端の職人である私は、ひたすら待った。

 

と、ようやく溶接作業指示書が下りてきた。

 

そしてなんと、読んでビックリ!!

作業内容が、アーク溶接からろう接に変更されているではないか!!

 

 

分かりやすく図解で紹介しよう。

 

アーク溶接とは、

「溶接棒からアーク放電を発生させ、母材を溶かして溶接」

することを指します。

 

出典:KEYENCE/アーク溶接のメカニズム

 

続いてろう接とは、

「母材より低い温度で溶ける溶加材(ろう材または、軟ろう:はんだ)で接合する方法で、母材を溶かさず接合*1」

することを指します。

*1引用:KEYENCE…ろう接の種類と原理

 

出典:KEYENCE/ろう接の種類と原理

 

(おぅおぅ、これはもはや当初の作業内容から大きく逸脱している・・)

 

“溶接の魔術師” ならば対応できるだろうが、私のような末端職人では無理だ。

なにより、溶接の強度や出来栄えに不安が残る。

 

――これでも溶接職人の端くれ、職人魂を汚すことはできない

 

ゼネコン以下、大勢の関係者の顔が浮かんだが、出来ない仕事は出来ない。

丁重にお断りしようとした矢先、直上の施工会社から、

 

「溶接はこっちでやるから、最後に不良箇所だけチェックして」

 

最後のチェックとは、強度プラス気密性や耐圧性の確認のことだ。

(まぁそのくらいはやってもいいけど、もし脆弱性が発覚した場合どうするんだろう)

 

――そして待つこと一か月半。

最後のチェックの時が来た。

 

私は、慎重に溶接箇所を叩いた。

 

すると、

 

割れた

 

・・・・・・。

 

 

その後、ゼネコンからの下請け→孫請け→超孫請けという伝言ゲームで、即時に補強の要請があった。

 

が、できるわけがない。

そもそも、これは「ろう接」では無理だ。

「アーク溶接」でなければ、とうてい無理な溶接内容なのだから。

 

 

「現場を知らない」とはこのことか。

溶接経験のない人間だけの現場も珍しいが、職人の意見を聞かず、「アーク」ではなく「ろう」を選択した責任は、回りまわってゼネコンにある。

 

構造物の屋台骨の溶接強度や安全性が不足している、ということは、完成と同時に「超巨大ゴミ」を生むも同然。

だからこそ、(現場の末端とはいえ)実際に溶接を行う職人の意見を参考にすべきだ。

 

施主である国交省の顔色など、うかがってる場合ではい。

 

 

**

 

 

この話はすべて嘘である。

どう見たって嘘にきまっている。

 

なぜ私が、現場で「溶接職人」などができると思うのか。

 

確かにアーク溶接の資格はもっているが、私が溶接などしたら、すぐさま破壊されるだろう。

もしくは溶かしすぎて跡形もなく消えるだろう。

 

 

建設業界のヒエラルキーと溶接の魅力について、ちょっとだけ伝えたかったのだ。

 

 

株式会社キーエンスの本社へ、いきなりの架電にもかかわらずHP上のイラスト使用を快諾くださり、心より感謝を申し上げます!

 

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2件のコメント

溶接の資格までお持ちとは驚きました!

孫請け孫請けの状況については私も心当たりがあります

生産性の無い中抜きばかりが横行する業界が改善される日は来るのでしょうか

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