第二の人生・タクシー運転手&スタバの若手アルバイト

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神奈川県にある新綱島駅に降り立ったわたしは、さっそくタクシーを拾いに通りへ出た。駅前にタクシーが常駐しているような場所ではないので、流しのタクシーを拾うしかなく、こりゃ苦戦を強いられるかもしれないな・・と思いながら辺りをキョロキョロと見渡していた。

ところが、さほど大きな駅ではないがさすがは横浜市である。流しのタクシーがわんさか通り過ぎていくではないか。そのうちの一台に向かって手を挙げると、素早く乗り込み行き先を告げた。

 

「動物病院なんですけど・・住所言ったほうがいいですよね?」

駅から4キロ離れた場所なので、さすがに住所検索しなければ分からないだろう・・と、わたしは運転手に確認をした。すると案の定「お願いします」ということで、ネットで住所を調べると読み上げた。

こうして、目的地が定まったところでようやくタクシーは動き出した。

 

「すみません、お客さま。私のスマホでも調べてみてよろしいでしょうか?」

走行途中に突如、運転手がそう尋ねてきた。もちろんどうぞ・・と答えると、彼は自らのスマホでグーグルマップを開き、先ほどと同じ目的地を入力した。

ちなみにわたしも、己のスマホで同じことをしているので、この車内において3つのナビが発動されていることになる・・などとほくそ笑んでいると、運転手が

「同僚から"カーナビよりもグーグルマップのほうがいいルートを教えてくれる"と言われたもので・・」

と、ややはにかみながら独り言をつぶやいた。どうやら新米のタクシー運転手らしい。

 

「じつは先月から、この仕事を始めたんです。昨年の12月に二種免許をとりまして。それまでは、いわゆる普通のサラリーマンをやっていました」

年の頃は60代後半だろうか、定年退職後のセカンドキャリアとして、タクシー運転手を選択した模様。ちなみに、キャリア一か月で体験した最も遠い目的地は「中目黒」とのこと。これまた初々しい遠距離である。

それにしても、車両に搭載されたカーナビよりもグーグルマップを参考にするあたり、イマドキっぽいではないか。年齢は若くはないが、考え方が柔軟で好感が持てる。

 

なお、彼もわたしもグーグルマップを開いているのだが、わたしのほうでは12分かかるのに対して、運転手のほうでは9分と出ているではないか。なぜ3分の差があるのかは分からないが、とりあえず最短ルートを進んでもらえれば問題はない。

「カーナビでは南のルートを推奨していますが、グーグルでは北のルートのほうが到着が早いと出ていますね」

わたしのスマホも同じように、北ルートのほうが渋滞も少なく走行できると示されている。そこでわれわれは、満場一致で北ルートを選択した。

・・ちなみにこの共同作業を経て、車内におけるわれわれの会話がぐんと弾んだのは言うまでもない。

 

シニア世代のタクシー運転手を見ると、ついベテランだと思い込みがちだが、セカンドキャリアとしてこの職業を選ぶ人も増えているのだそう。よって、「運転手さんにお任せします」という発言は、新人シニアドライバーにとってある種の強烈なプレッシャーとなる可能性がある。

これからの時代は、運転手と乗客とが力を合わせて目的地へ向かうのが、新たなトレンドとなりそうだ。

 

 

動物病院の後は、関越自動車道の三芳パーキングエリアにある、スターバックスへ立ち寄った。あと少しで22時、スタバの閉店時刻のカウントダウンが始まっていたため、わたしは車を止めると店舗めがけてダッシュした。

そんな閉店間際の店内では、若い従業員らが笑顔で迎えてくれた。

 

「グランデで飲むなら、なにがいいかな?」

スタバ恒例の圧迫面接を開始するわたしに対して、感じのいいイマドキ男子は、

「うーん。僕はこういった甘いドリンクしか飲まないんですよね・・」

と言いながら、シーズナルドリンクであるジャンドゥーヤチョコレートモカや、オペラフラペチーノを指さした。

たしかに魅力的なドリンクではあるが、遠距離走行途中にグランデサイズで飲みたい商品ではない。もっとサッパリしたもの、たとえばティーなどを紹介してくれないかな——。

 

「うーん。僕はティーを飲まないので友人の受け売りですが、イングリッシュブレックファストにホワイトモカのシロップを入れて、ロイヤルミルクティーっぽくするのとか・・」

・・なるほど、なかなか面白い組み合わせである。だが今は、どちらかというとサッパリした感じの甘すぎないテイストを求めているわけで——。

そこでわたしは、別の質問を投げかけた。

「ドリップとアメリカーノなら、どっちがいいかな?」

特に深い意味はないが、このシンプルなビバレッジにどんなカスタマイズをぶち込んでくれるのか、その答えに期待を寄せた。

「うーん。僕はブラックコーヒーを飲まないので・・・」

・・あぁそうだ、キミは甘党だったよね。意地の悪い質問ばかりで申し訳なかった。

 

注文の品が出来上がるまでの間、カウンター越しに女子店員と会話を楽しむのも、スタバを満喫する一つのやり方である。

そこで、可愛らしい女子と他愛もない話をしていたところ、彼女の首に不釣り合いなネクタイが巻かれていることに気がついた。それはユニフォームなのかを尋ねたところ、

「今日はみんなでネクタイしよう!って決めたんです。気分アゲていこう!って」

という、意外な返事に驚かされた。イベントでもないのに「気分をアゲるために、ちょっと変わった取り組みを考える」ということを、若者たちが率先して実施しているのだから。

 

喜びや楽しみというのは、小さなことでも十分満たされる。そんな本質を、ここにいる若者たちが理解していることが、なんだか嬉しく思えた・・という小さな喜びが、わたしの気分をアゲてくれたのである。

 

 

長野まであと200キロ。老若男女問わず、働く人々から元気をもらった一日であった。

 

サムネイル by 希鳳

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