海外の若者と仲良くなるには、外国語を流暢にしゃべるよりも重要かつ実用的な要素がある。これは以前から薄々感じていたことだが、今日、それが確証に変わったのだ。
*
わたしの実家に、オーストラリアから友人ファミリーがやって来た。友人の名はペニー。
彼女らは東京や京都・大阪あたりを満喫している様子だったが、かつてわたしの母校のAET(アシスタント・イングリッシュ・ティーチャー)を担当していた経緯からも、古巣・長野を訪れる計画を立てていた。
そしてひょんなことから、わたしの父と知り合いだった彼女が、インスタグラムを通じて連絡をくれたのだ。
「1月5日の午後、お父さんとお母さんに会えないかしら?」
最後にペニーと会ってから何年、いや何十年が経過しただろうか。毎年、クリスマスカードが送られてきていたが、会うことも話すこともなかった彼女が、わたしの両親を気遣い会いに来てくれるというサプライズに、感情表現の乏しい父もウキウキしていた。
*
「コニチワ、ウラベセンセイ!」
玄関を開けるなり、昔と変わらぬ笑顔でペニーが父に話しかけた。その後ろには、彼女の娘であるテンジーとゾーイが立っている。まさか、こんな田舎のボロ家で再会を果たせるとは、誰も想像できなかっただろう。
リビングに招き入れると、さっそく父とペニーが昔話に花を咲かせ始めた。そこでわたしは、二人のレディーの話し相手を買って出た。
テンジーは来春から大学生で、ウェブデザインなど美術系の専攻なのだそう。そして、高校生のゾーイは日本文学のテストで一位を獲得するなど、聞けば聞くほど才色兼備の姉妹だった。
最初のうちは挨拶がてら、日本の文化や食べ物について、また、日本語の難しさについてといった、当たり障りのない会話を楽しんだ。中でも興味深かったのは、日本語で数を数える際に「イチ、ニ、サン・・・」と「ヒトツ、フタツ、ミッツ・・・」という、二通りの数え方が存在することへの疑問だった。
これにはちゃんとした理由があるのだろうが、浅学なわたしにはその説明ができず、「なんでだろうね?」とオーストラリア人と一緒にクエスチョンマークを浮かべていた。
おまけに、わが家の番犬・乙(おつ)の名前の理由を聞かれた時、「日本の古い呼び方で、二番目って意味だよ」と答えたものだから、
「イチ・ニとヒトツ・フタツの他に、コウ・オツという呼び方もあるの!?」
と、逆に混乱させてしまった。
そこでわたしは、場の雰囲気を整えるべく姉のテンジーにこう尋ねてみた。
「ウェブデザインってことは、イラストなんかも描いたりするの?」
すると彼女は、
「うん!アニメを描いたりしてる。日本のアニメが好きで、よく観てるよ」
と笑顔で話してくれたのだ。これは好都合!とばかりに、どんな日本アニメが好きなのかを尋ねると、
「色々あるけど、最近は呪術廻戦かな」
と、「待ってました!」の模範解答が返ってきたのである。
呪術廻戦(じゅじゅつかいせん)は、日本でも圧倒的な人気を誇る漫画&アニメである。とくに、呪いの王・両面宿儺(りょうめんすくな)がダントツでお気に入りなわたしは、前のめりで宿儺の魅力についてまくしたてた。
「ス、スクナはあまり好きではないけど・・ゴジョウが好き」
推しがかぶらない奇跡、キターー!!わたしはスクナのチャームポイントを、そしてテンジーはゴジョウについて語ればいいわけで、妹のゾーイも嬉しそうに我々の会話を聞き入っていた。
(ちなみに、ゾーイはハローキティが好きなのだそう・・)
「わたしはゴジョウよりもゲトウが好きだなー」
「そうなんだ。あ、こないだ彼らの等身大パネルと写真を撮ったよ!」
双方とも負けず劣らずの熱い議論が飛び交う中、日本代表vsオーストラリア代表による呪術廻戦討論会は、わたしの両親とペニーが話題についていけないことから中断された。
だが明らかに、わたしとテンジーそしてゾーイとの距離は縮まっていた。さらに、禁じ手ではあるがジャンプの先読み動画まで漁っているわたしは、聞かれてもいないのに最新話の考察まで披露したわけで、彼女らの目がキラキラと輝くのを確認できた。
——やはり、日本アニメは国境を超えるのだ!!
その後も、彼女らがハリネズミのいるカフェに行ったという話から、カピバラの話題へと強引に舵を切るなど、日本が秘める魅力と可能性を存分に伝えたわたし。
その結果、帰国前にカピねこカフェ行きが決まるなど、カピバラ観光大使として表彰されてもいいくらいの活躍を果たしたのである。
*
外国人、とくに若者と仲良くなるためには英会話力も必要だが、それ以上に漫画やアニメの知識がものを言う・・ということが、本日証明されたわけだ。
サンキュー、ゴジョウ。
コメントを残す