ランボー/怒りのMサイズ

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私はどうやら「型にはまるタイプ」のようだ。157センチ55キロというごくありふれた体格の女であるため、衣服のサイズはレディースのМに決まっていると高をくくっていたからだ。

 

ちなみに、ここまでの内容に異論はないだろう。そう、つまり誰もがそう考えるように、私自身も中肉中背のこの体格ならば、サイズはレディースのMであると信じて疑わなかった。

その結果、何十着ものTシャツやトレーナー、ニットなどを無駄にしてきたのだ。

 

そもそもサイズ展開というのは、S・M・Lというざっくりとした3種類の場合が多い。量産するには当然のことであり、事実、このやり方でほとんどの日本人が困ることなく衣服を選び着用しているわけで、なんら問題はない。

この私ですら、特に気にすることもなく「Mサイズ」を選び続けてきたのだから、今さら何をぬかすか!と笑われてしまうだろう。

そして毎回、どこかタイトな印象を抱きつつも、何度か着ては衣装ケースに永眠するというルーティンを繰り返してきた。

 

思い出に残る事件といえば、「ハイブランドのカットソー事件」というのがある。

薄っぺらのノースリーブのくせに素材がシルクだからか、5万円もする高級カットソーを購入したことがある。正確には、引くに引けなくなり店員の口車に乗せられて買わされてしまった、という感じだが。

帰宅後、そのカットソーを改めて着用したところ、腕が通らない。腕というか、あとちょっとのところで脇が詰まってしまい、どうにも身動きが取れなくなったのだ。

 

(5万円もしたんだ、何がなんでも着てやる!)

 

意地とプライドをかけて、私は上半身をくねらせながらなんとかカットソーに腕を通すことに成功した。

 

(よし、やったぞ!)

 

そんな喜びもつかの間、なんだか呼吸が苦しくなってきた。胸のあたりが圧迫されて、肺がうまく膨らまないのだ。鏡をみると、シルクのカットソーはまるで加圧タンクトップのように、私のカラダに食い込んでいる。

胸はまっ平らに押しつぶされ、胃袋や腹筋がくっきりと浮かびあがっている。まるでチューブにギュウギュウ詰めにされた、得体の知れない何かのよう。

おまけに汗をかいており、カットソーが皮膚に張り付いて動かない。

 

(ま、まずい。過呼吸になる!)

 

閉所恐怖症のような、圧迫による恐怖を感じた私。限局性恐怖症の一種なのだろうか、呼吸が浅くなり心拍数が上昇し、気が狂いそうになる。

 

(ダメだ、このままでは失神する!!!)

 

どうやっても気持ちを落ち着かせることができない私は、気が狂って失神するくらいなら、どんな手段を使ってでも生き延びてやろうと覚悟を決めた。

そして素早くキッチンへ向かうと、サムギョプサルを切るハサミを掴み、買ったばかりの5万円のシルクのカットソーをジャキジャキと切り割いてやった。するとみるみる呼吸が楽になり、失神も恐怖もスッとどこかへ消え去った。

 

こうして、数時間前に購入した高級カットソーは、日の目を見ることなく肉切りバサミによって葬られたのだ。

 

 

「私は身幅と身丈だけ覚えておいて、服を選んでるよ」

 

友人がそう教えてくれた。どこの部分のことか分からないが、文字から推測するにシャツの横幅と丈の長さのことだろう。

 

「メンズで、身幅60身丈70くらいのTシャツなら、いいシルエットになると思うよ」

 

ダボダボは好みではないが、かといってピッタリすぎるのもゴツさが強調されてしまうので、もはやオシャレはできないカラダになってしまったのだと諦めていた私。

そこへきて友人の今日のファッションは、メンズの商品にもかかわらずかわいくてオシャレだ。

やや大きめのTシャツにピタピタのパンツを履いた彼女は、とても女性らしい。もちろん、顔がかわいいというズルさはあるが、それにしてもフォルムが厳(いか)つくないし、これならば私にも真似できそうだ。

 

さっそくネットで、適当なブランドのメンズTシャツを選ぶ。サイズの横には、たしかに身幅や身丈が記載されている。

(どれどれ、Sサイズで身幅51身丈70。となると、Lサイズで身幅60身丈85。・・・ん??)

この矛盾について友人に質問する。

「あぁ、それは自分には合わない形なんだと思えばいいよ」

なるほど!最初に決めた「身幅と身丈」をクリアしたシャツだけを買えばいいのか。たとえどんなに気に入ったデザインだとしても、フォルムが合わなければ衣装ケースのこやしとなるだけ。ならば購入時点でシャツの大きさを特定しておけばいいのだ!

 

こうして、私のオシャレへの道が開かれた。これでもう、ランボーとか北斗の拳とか言われることはないだろう。

 

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