じっとしていることが苦手は私は、すかさず関西方面へ逃げた。
一箇所にじっとしていることが苦手、というわけではない。外出しない時は1週間でも自宅にこもり、風呂にも入らず、顔も洗わず、歯も磨かず、ホームレス顔負けの不潔っぷりを発揮する。
特に目的地もなく観光気分ではないので、泊まるホテルなどどこでもいい。しかしどこでもいいなりに、こだわりたいポイントはある。
・まだ新しい
・宿泊料金が安い
・駅から近い
このくらいがクリアできていれば正直どこでもいいし、これ以上の条件で宿泊先を決めることもない。
私の求める条件に該当するホテルの代表格は「変なホテル」。
一号店となるハウステンボス店ができたのが2015年。H.I.S.の創業者でありハウステンボス社長の澤田英雄氏のアイデアによる、「ローコストで最高の滞在快適性を提供するホテル」としてオープンした。
フロントが無人の代わりにロボット(ホログラム映像や恐竜の模型)が対応するため、チェックインからチェックアウトまで人間のスタッフと会うことはない。さらにホテル自体が新しいため設備も最新で言うことなし。
部屋に入るとすぐさまWi-Fiに接続。
(・・・あれ?)
何度やってもつながらない。急ぎの仕事があったので、スマホでテザリングしてパソコンをネットに繋ぐ。
ひと段落終えたあと、再びWi-Fi接続を試みる。
しかしレシートに書かれたパスワードも、部屋に設置してあるWi-Fiのご案内に書かれたパスワードも、当然ながら同じでありそれを何度入力してもはじかれる。
(しかたない、クレームだ)
ロボット対応型ホテルではあるが、部屋から人間スタッフに電話がかけられる。私は備え付けのパネルの「通話」ボタンをタッチ。
「はい、フロントです」
「Wi-Fiがつながらないんですけど」
こちらは仕事をしにはるばる関西までやってきたわけで、それが部屋のWi-Fiがつながらないとなれば、このホテルを選んだ意味がない。
大人な私は努めて冷静に、穏やかに尋ねる。
すると人間スタッフ、
「わたくしも接続してみますので少々お待ちください。
んー、こちらでは接続できますね」
フン、そちらでつながろうが、こちらでつながらなければ意味がないんだよ。などと悪態をつきながらも、念のため私も再度トライする。
やっぱりダメだ。
「電波状況ではなさそうですし、パスワードは間違いありませんか?」
でたよ、この私がこんな簡単なパスワードを間違えるはずもない。なぜなら、変なホテルゆえ「変なネット」をローマ字入力するだけの簡単なものだからだ。
「nが3つなんでんすけど」
ハッとした。
「へんな」をローマ字で表記すると「henna」となる。
だが実際、キーボードで「henna」と入力すると「へんあ」と変換される。
どうすれば「へんな」になるかといえば、「hennna」と、nを3回入力しなければならないのだ。
(・・・しまった)
コソコソとパスワードを再入力すると案の定、接続できた。
よかった、スタッフにキレなくて本当によかった。
*
翌朝起きて思う。
ーーチェックアウトが11時じゃ、そのあとどこへ行けばいいんだ
通常、ワーケーションと言えば連泊が前提。それゆえ、昼間の時間帯もホテルの部屋でくつろぎながら仕事ができるという算段。
だが私は、そこまでヴァケイションを満喫したいわけではない。ただ単にいつもと違う環境で仕事がしたいだけだ。
しかも部屋でゴロゴロしながら仕事ができれば最高で、身なりを整え背筋を伸ばしてパソコンになど向かいたくはない。
(しかたない、連泊だ)
変なホテルが素晴らしいのは、宿泊料が安いこと。一泊5,000円で泊まれるならば、私がスタバで一日に落とす金額と変わりない。
だったらスタバをあきらめて、ダラダラ過ごすことに投資しようではないか。
思うに、仕事をする人は日中に仕事をするわけで、ホテルのチェックアウトも22時くらいにしてくれないとワーケーションにならない。連泊前提はその通りだが、私のようにショートステイでもワーケーションとなると、チェックアウト11時では意味がない。今後、夜遅くまでホテルで仕事して帰宅(帰京)するプランが出ることを希望する。
とはいうものの、日々2リットルくらいカフェインを摂取している私にとって、朝からノーカフェインが続くのはつらい。
ルームサービスというものもなく、結局はカフェを求めて外出するしかなさそうだ。
そのとき、今滞在2度目となるハッとした。
(ウーバーイーツがあるではないか)
すぐさまスマホで確認し、近所のカフェからドリップ、ホットラテ、アイスコーヒー、クロワッサンを注文。
こうなると、もはや日本中いや世界中のどこにいても、私の日常生活は変わりないことになる。
部屋にこもるだけなら自宅でいいし、ウーバーイーツに食糧を届けてもらうなら自宅でも同じだし、パソコンを使って仕事をするなら自宅と変わらないし、わざわざ遠方へ出かけてホテルに滞在しながらウーバーイーツを注文してまでワーケーションを満喫する必要性は、どうやら私にはなさそうだ。
Illustrated by 希鳳
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