てんぷのさい(つまらない面白さ)

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「なんかためになること言ってた?」

ニートの友人が質問する。

「エビの天ぷらを食べれば、その店のクオリティーがわかるって言ってた」

私が答える。

「ためになるわ~」

・・絶対ウソ。

 

 

言葉の重みというか価値は、捉え方によって効力を発揮するため、誰がどんなシチュエーションで言ったかによって、まるで違う威力となる。

 

ニートの友人はいつも私にとってグッとくる、刺さるセリフを吐く。私が望んでいようがいまいが、価値あるヒントやアドバイスをくれる。

対人恐怖症かつ極度の引きこもりゆえ、人間の内面に対する洞察力がずば抜けているのかもしれない。

 

私の基準で、

「不機嫌な人をご機嫌にする才能」

というものがあり、それができる人は優秀だと判断する。ニートの友人は正にこの能力の持ち主。

 

面白い出来事や事件があると、彼に報告するのが日課となっているのだが、

「超一流企業で腕を鳴らす、エリートビジネスパーソンの友人に久しぶりに会った」

という報告の返しが、

「なんかためになること言ってた?」

だった。

 

エリートの友人、じつは「話がさほど面白くない」のがチャームポイント。それゆえ、ニートの友人はニヤニヤしながらわざと質問してきたのだ。

 

(ためになること・・・)

 

会話を思い返すが、ためになることが思い出せない。ニートを唸らせるほどの立派で面白い話題など、いつも通り皆無なわけで。

そんな中、唯一覚えていたのが「エビの天ぷら」の話だった。

 

「スーパーで売ってるエビの天ぷらの成分表示、見たことある?」

敏腕エリートが問う。

「買わないし、見たこともない」

正直に答える。

「原材料も添加物も、使用した重量の割合の高い順に表示されてるんだよ」

それは知ってる。

 

敏腕エリートいわく、スーパーでエビの天ぷらを買うと、成分表示のトップには「エビ」ではなく「衣(小麦粉、でん粉、食塩、食用油)」と書かれているとのこと。

つまりエビの天ぷらのくせに、衣>エビということだ。

 

この話を聞いて、顧問先の社長を思い出した。

社長はイタリアンレストランのオーナーで、店の隣りには蕎麦屋が並ぶ。蕎麦屋のほうが昔からあったのだが、久しぶりに食べた「海老天そば」が苦笑するしかない一方、経営の難しさを物語っていた。

 

「海老天そばの料金が上がってたんだ、少しだけね」

「そのせいか、出てきたエビの天ぷらがデカかったの」

それなら値上がりしても嬉しいことだ。

「デカいエビの天ぷらを一口食べたら、衣だったんだよ」

まだ一口だからでは?

「あれ?と思って真ん中くらいまで食べたんだけど、ぜんぶ衣」

嫌な予感。

「しっぽ近くになって、ようやく細くて小さいエビの身が出てきてさ。笑ったよ~」

「そういえば食べる前、大きさの割にしっぽが小さいなぁと思ったんだよね」

つまり、エビを小さくして衣を分厚くしたあげく値上げをした、ということらしい。何口食べてもエビにたどり着かない、恐怖の海老天。

 

蕎麦屋の店主が敢行した「値上げ」の真相は不明だが、なにも衣をデカくしてまでかさ増ししなくても、と思う。だがこれこそが、経営の実態を如実に表しているのだろう。

 

そんな切なくも分厚い「エビの天ぷら」の話を思い出した。

 

 

誰もが面白かったら、この世はつまらなくなる。つまり、人間には役割分担がある。

 

ニートの友人は、不機嫌をご機嫌に持っていく力がある。

エリートの友人は、大して役に立たない話を誇らしげに演説することで、聞く人を楽しませてくれる。

 

もしエリートの友人が、役立つ話や面白い話ばかりしてきたらどうだろう。これほど興醒めすることもない。

なぜなら、仕事もできる、金もある、ルックスも良いうえに会話も面白いなど、そんな不公平なことがあってはならないからだ。

 

「つまらない状態をキープしろ!」と言われるプレッシャーは相当なものだが、どうか我々の期待を裏切らない「質の高いつまらなさ」を、これからも提供し続けてほしい。

 

つまらないことが面白いーー

これは常人のなせる業ではない、ある種「天与の資」だ。

エリートの友人の「真の面白さ」を知っている私は、優越感に浸る。

 

 

Illustrated by 希鳳

 

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