「なんかためになること言ってた?」
ニートの友人が質問する。
「エビの天ぷらを食べれば、その店のクオリティーがわかるって言ってた」
私が答える。
「ためになるわ~」
・・絶対ウソ。
*
言葉の重みというか価値は、捉え方によって効力を発揮するため、誰がどんなシチュエーションで言ったかによって、まるで違う威力となる。
ニートの友人はいつも私にとってグッとくる、刺さるセリフを吐く。私が望んでいようがいまいが、価値あるヒントやアドバイスをくれる。
対人恐怖症かつ極度の引きこもりゆえ、人間の内面に対する洞察力がずば抜けているのかもしれない。
私の基準で、
「不機嫌な人をご機嫌にする才能」
というものがあり、それができる人は優秀だと判断する。ニートの友人は正にこの能力の持ち主。
面白い出来事や事件があると、彼に報告するのが日課となっているのだが、
「超一流企業で腕を鳴らす、エリートビジネスパーソンの友人に久しぶりに会った」
という報告の返しが、
「なんかためになること言ってた?」
だった。
エリートの友人、じつは「話がさほど面白くない」のがチャームポイント。それゆえ、ニートの友人はニヤニヤしながらわざと質問してきたのだ。
(ためになること・・・)
会話を思い返すが、ためになることが思い出せない。ニートを唸らせるほどの立派で面白い話題など、いつも通り皆無なわけで。
そんな中、唯一覚えていたのが「エビの天ぷら」の話だった。
「スーパーで売ってるエビの天ぷらの成分表示、見たことある?」
敏腕エリートが問う。
「買わないし、見たこともない」
正直に答える。
「原材料も添加物も、使用した重量の割合の高い順に表示されてるんだよ」
それは知ってる。
敏腕エリートいわく、スーパーでエビの天ぷらを買うと、成分表示のトップには「エビ」ではなく「衣(小麦粉、でん粉、食塩、食用油)」と書かれているとのこと。
つまりエビの天ぷらのくせに、衣>エビということだ。
この話を聞いて、顧問先の社長を思い出した。
社長はイタリアンレストランのオーナーで、店の隣りには蕎麦屋が並ぶ。蕎麦屋のほうが昔からあったのだが、久しぶりに食べた「海老天そば」が苦笑するしかない一方、経営の難しさを物語っていた。
「海老天そばの料金が上がってたんだ、少しだけね」
「そのせいか、出てきたエビの天ぷらがデカかったの」
それなら値上がりしても嬉しいことだ。
「デカいエビの天ぷらを一口食べたら、衣だったんだよ」
まだ一口だからでは?
「あれ?と思って真ん中くらいまで食べたんだけど、ぜんぶ衣」
嫌な予感。
「しっぽ近くになって、ようやく細くて小さいエビの身が出てきてさ。笑ったよ~」
「そういえば食べる前、大きさの割にしっぽが小さいなぁと思ったんだよね」
つまり、エビを小さくして衣を分厚くしたあげく値上げをした、ということらしい。何口食べてもエビにたどり着かない、恐怖の海老天。
蕎麦屋の店主が敢行した「値上げ」の真相は不明だが、なにも衣をデカくしてまでかさ増ししなくても、と思う。だがこれこそが、経営の実態を如実に表しているのだろう。
そんな切なくも分厚い「エビの天ぷら」の話を思い出した。
*
誰もが面白かったら、この世はつまらなくなる。つまり、人間には役割分担がある。
ニートの友人は、不機嫌をご機嫌に持っていく力がある。
エリートの友人は、大して役に立たない話を誇らしげに演説することで、聞く人を楽しませてくれる。
もしエリートの友人が、役立つ話や面白い話ばかりしてきたらどうだろう。これほど興醒めすることもない。
なぜなら、仕事もできる、金もある、ルックスも良いうえに会話も面白いなど、そんな不公平なことがあってはならないからだ。
「つまらない状態をキープしろ!」と言われるプレッシャーは相当なものだが、どうか我々の期待を裏切らない「質の高いつまらなさ」を、これからも提供し続けてほしい。
つまらないことが面白いーー
これは常人のなせる業ではない、ある種「天与の資」だ。
エリートの友人の「真の面白さ」を知っている私は、優越感に浸る。
Illustrated by 希鳳
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