ーー10年前、友人と2人で格安韓国旅行をした。
2泊3日で往復3万円という、都内から箱根へ行くよりはるかに安い金額で韓国を往復した。
その当時の韓国(明洞)は、美容もマッサージも食べ物も、すべて安かった。
友人は、
「腹回りの脂肪を溶かすの!」
と、脂肪溶解手術を受けた。
彼女の待ち時間(およそ1時間)、ヒマになる私は、クリニックの並びにある室内射撃場へ行った。22口径のピストルを撃たせてもらい(その当時、私はピストル射撃の選手だった)、個人的にはすでに韓国を満喫した。
クリニックへ戻ると、脂肪溶解後の友人がマグロの様に横たわっていた。
彼女が起き上がるまでに時間がかかりそうだったので、またもや暇つぶしに、ワキとヒザ下のレーザー脱毛をした(たしか両ワキで2,000円、所要時間10分)。
その後、まゆ毛とアイラインにアートメイク(浅いタトゥー)を入れてもらった。本来は施術前に麻酔を塗るのだが、その日は品切れ。ということで、ノー麻酔でアイライン(まつ毛の生え際)のアートメイクに挑んだ。
ノー麻酔の感想としては、
「この世のどんな拷問にも耐えられる」
という確信を持った。
施術直後、まぶたが持ち上がらないほどに腫れあがり、施術者のおばちゃんが近所のコンビニまで氷を買いに行ってくれた。
いろいろあったが、トータル5,000円くらいでまゆ毛とアイラインのアートメイクができた(麻酔がなかったから安くしてくれたのだが)。
そうそう。友人は、
「人気者になる手相を彫る!」
と意気込んでいたが、どの韓国人に聞いても
「そんな整形手術は知らない!」
と言われ凹んでいた。
今回の韓国訪問における彼女の最大の目的は、人気者になる手相を彫ってもらうことだったのに。
最終的には、我々の話を勝手に聞いていた韓国人から
「手相なんてペンで書けばいい」
と、アドバイスされた。
なに言ってんだ、とその韓国人など相手にせず通り過ぎようとしたとき、
「そうか、毎日書き続ければ手相になるのか!」
と、友人が納得したことには驚いた。
宿泊施設は、漫画喫茶の一角だった。派手なK-POPが流れ、とても眠れる環境ではなかった。
しかし我々は、朝までマッサージやサムギョプサルを食べ歩いていたため、結局、宿泊施設は荷物置き場として使用しただけだった。
ーーそしていよいよ帰国の時を迎えた。
空港内で何か食べようと、少し早めにチェックイン。
税関を通過すると、私の視野に「濃い緑色の背景に、金色のクラウンのロゴが描かれた店」が飛び込んできた。
”ROLEX”
時計好きの私は、免税店で時計を物色するのが趣味だ。その時も、ご多分に漏れずロレックス店内へと足を踏み入れた。
友人は、おみやげを買いにどこかへ消えた。
ーーよし、ゆっくりと物色できる
当時、やや欲しいと思っていたロレックスがあった。
オイスターパーペチュアルという種類で、10ポイントダイヤが埋め込まれた、マザーオブパール(貝)のダイヤル(文字板)が特徴的なレディースウォッチ。
とは言え、特にほしいわけではなかった。
ただ、マザーオブパールの「色が濃い個体」があれば、ほしいと思っていた程度で。
マザーオブパールは貝なので、2つと同じものはない。だからこそ、ロレックスの店舗があればちょこちょこ入り、マザーオブパールの色をチェックしていた。
それが、仁川(インチョン)空港のロレックスに、ものすごく濃いピンク色の一本が、眠っていたのだ。
繰り返すが、マザーオブパールは貝=生き物だ。
つまり、出会えるとしたらそれは、運命なのだ。
搭乗時刻が迫る。
友人はまだ、買い物をしている。
ここでこの時計を買うべきか、ケン(見)すべきか。
2つの選択肢が私の脳内でグワングワンと渦巻いた。
「リカ!!!」
突然、友人に呼ばれた。
ハッと我に返った私は、左手にクレジットカードを2枚握っている。目の前にはロレックスの店員が2人、美しい笑顔で立っている。
店員の一人は白い手袋をはめ、一本の時計を磨いていた。
「なにしてるの?まさか買ったの?!」
すごい形相で友人が近寄ってきた。
私はただ、立ち尽くす。
「ちょっと!!!買ってんじゃん!!!なにしてんの!!!」
なぜか友人は怒っていた。
店員は相変わらず、笑顔だった。
どうやら、クレジットカード1枚では決済できなかったため、別のカードとの合わせ技で決済したようだ。
ーー後悔はしていない。なぜなら、運命の出会いだったから。
友人が泣きそうな顔でつぶやく。
「最後の最後でなにしてんの。なんのための格安旅行だったのよ。これじゃ往復ファーストクラスでもお釣りくるじゃん・・」
ーーやや、後悔した
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