ダメ、ゼッタイ。

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かつてわたしは「ウーバーイーツの鬼」として恐れられていた。料理などせずに、スマホ一つで暴飲暴食を繰り返すのがルーティンだったわたし。だがある日、とんでもない仕打ちが待ち構えていた。そう、一か月のウーバーイーツ代が28万円もかかっていたのだ。これはおよそ一日一万円の食費で一か月を過ごしたことになり、一食換算すると三千円を超える豪華な食事を満喫していたのだ。

カード明細を見た瞬間、驚かなかったといえば嘘になるが、それよりもはるかに強い後悔が頭上から落ちてきて、わたしは物理的に床へと崩れ落ちた。

 

それからというもの、ウーバーイーツのサブスクを解除すると同時にアプリを削除し、毎日、サツマイモとトウモロコシ、そしてリンゴやミカンをオーブンレンジで焼きながら清貧生活を送った。

だが不思議なことに「ならば痩せただろう?」と聞かれれば、答えはノーだ。いわずもがな、安上がりで腹を膨らませる手段と言えば、「スナック菓子」と「カップラーメン」が挙げられる。加えてお歳暮や年末も重なり、我が家には大量の菓子や食料品(モチを含む)がストックされることとなったのだ。

 

そもそも貧乏ながらに食べ方がおかしかった。たとえば一回の食事で、サイズの大きいサツマイモを4本食べるのだから痩せるはずがない。トウモロコシも一度に2-3本食べるわけで、そこへお口直しで菓子を投入するのだから痩せようもない。

生意気にも「素材の味を楽しむ」などとほざきながら、それでいて足りない塩味や甘味をスナック菓子で補うのだから、本末転倒もいいところ。

 

そんなわたしが、何か月ぶりかにウーバーイーツを注文した。

 

サツマイモはとうの昔に底をつき、家中の菓子という菓子を食いつくし、台所の奥に落ちていたレトルトの白米に開封済みのふりかけをかけて食べたところ、ほのかにカビの味がする。――こんなことなら、もはやウーバーイーツに手を出すしかないだろう。

アレは一種の違法薬物だ。覚せい剤に近い依存性と常習性、そして多幸感が味わえることも同じ。おまけに手軽で便利、自宅に居ながらにして金を払わずに食べ物を手に入れることができる、アレにハマったわたしは薬中患者と同じである。

 

ウーバーイーツのアプリを削除していたわたしは、まずはインストール作業から入る。すぐにあの忌々しい黒色のアイコンが現れた。サブスクも解除しているため、なんの特典も受けられない寂しさを振り払いながら、23時過ぎにやっている店を探す。

「どんだけやってんだ!?」

思わず大声で独り言が漏れた。なんと、数か月前よりもはるかに多くの店がウーバーイーツに加盟しており、利用時間も深夜1時や明け方の4時などかなり遅くまでやっている。はたまた24時間OKなんてところもあるじゃないか。

 

色々な店を物色していると、画面下部で「500円引きのクーポン」が主張していることに気づく。見るとスーパーやコンビニなど「食品・雑貨」をウーバーイーツで注文する際に使える割引券。最低でも1,500円以上の買い物が必要だが、500円も割り引いてくれるのならば悪い話ではない。

(なるほど、こうやって海老で鯛を釣る作戦か)

フン、わたしを舐めるな。かつて一か月に28万円も貢献したプロカスタマーだぞ。こんな姑息な手に引っかかるような小物ではない――。

 

理性を総動員させながら、わたしは配送料の安いカオマンガイ弁当をクリックした。店舗で買えば700円程度の商品だろうが、ウーバーイーツだと1,200円。そこに配送料がプラスされるので、合計1,400円の豪華弁当となった。

――このカオマンガイを、今年最初で最後のウーバーイーツにするんだ。

 

 

きっと薬中患者も、こうして再び薬物に手を染めるのではなかろうか。やはり手の届くところに「薬物」があること自体、完全なる脱却は不可能であることを意味する。

 

手軽で便利、ネットさえつながればいつでもそばにいてくれる存在だからこそ、ウーバーイーツという沼から這い上がれない被害者は後を絶たないのだろう。

 

サムネイル by 希鳳

 

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