カットスイカ(大)

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凡庸な小市民であるわたしにとっての、ここ最近の楽しみといえば「スイカを食べること」だ。

スイカといえば、シャクシャクの歯ごたえとジューシーな果汁が特徴である。そして食べても食べてもまだ詰め込める、果肉の95%が水分という圧倒的なスポンジ感には頭が下がる。

それにしても、果物のなかでもあれほどハッキリとした濃い色合いはないだろう。なんせ外見は黒と緑のギザギザで、中は真っ赤な果肉と黒い種でできているような、派手というか自己主張が激しいというか、そんな果物はスイカ以外にありえない。

 

しかし、子どもの頃のスイカの記憶といえば、真夏に蝉の声を聞きながら汗を垂らしてかぶりついたような、そうじゃないような・・。とにかく、スイカといえば真夏の果物というイメージだった。ところが今はまだ5月であるにもかかわらず、スーパーの店頭にはスイカがずらりと並んでいるのだ。

そしてラッキーなことに、大玉のスイカが丸ごと売られているわけではない。我が行きつけのスーパー「クイーンズ伊勢丹」は、セレブ御用達のためカットフルーツが多く並べられている。やはりセレブというのは料理をしないのだろうか。

 

だがそのおかげで、調理器具のない我が家でも立派なフルーツが食べられるのだからラッキーである。

つい先日まではイチゴとデコポンが主食だったので、包丁やまな板を使うこともなかった。つまり、ダイレクトにポンポンと口へ放り込めばよかったのだが、ここ最近はイチゴもデコポンも姿を潜めてしまったため、その代わりとなるスイカに白羽の矢が立ったのだ。

しかし丸ごとでは分が悪い。せめて半分、いや、四分の一カットでないと食べにくい。そこへきてクイーンズ伊勢丹は、とにかくカットフルーツが豊富である。サイズも、スイカだけで小・中・大・八分の一と四種類も揃っており、商品棚一面が真っ赤に染まっているのだから圧巻である。

 

そしてわたしは、言うまでもなくカットスイカの小と中を買うことはない。「大」一択である。しかも閉店間際になると、40パーセントオフのシールが貼られるため、そこを狙ってカットスイカの「大」を買い漁るのである。

(798円の40パーセント引きだから、480円くらいか・・・)

しかしこの「大」は、実際のスイカでいうところの何割程度の果肉なのだろうか。八分の一くらいか?

となると、そこにある六分の一を買ったほうがボリュームとしては得かもしれない。六分の一が850円程度だから、タイムセールで480円になった「大」を二つ買ったとして・・・いや、今ならタイムセールの「大」を二つ買うほうが得だ。しかも六分の一は外皮が生ゴミとして残るが、パックに入ったカットスイカならば生ごみは出ない。よし、カットスイカ(大)にしよう——。

 

こうしてわたしは、陳列してあるカットスイカ「大」をカゴに入れた。なんせタイムセールで40パーセントオフだ。およそ半額だと考えれば、一パック買う予定ならば二パックいける。元から数パックは食べるつもりだったのだから、思い切って全部買い占めてもいいかもしれない。

もしもタイムセールでなければ、こちらの六分の一をいくつか買うつもりだったが、いかんせん、安くなっているものを見逃すわけにはいかない。さらにカットスイカならば、そのままポンポン食べることができる。そしてどうだ、このタイムセールのシールが貼られたカットスイカの量たるや!

・・とにかく、こんなラッキーとは滅多にお目にかかれない。ごちゃごちゃ考えるよりも行動に移すべきだ。それこそ、モタついてるうちに他人に奪われでもしたら、元も子もない。

 

こうしてわたしは、40パーセントオフのシールが貼られたスイカを、次々にカゴへ放り込んだ。この際、全部食べられなかったとしてもやむを得ない。他人に取られるくらいならば、意地でもわたしが取り込んでやる——。

 

 

そして今、わたしは11パックのカットスイカ大を次々と平らげている。

スイカには麻薬成分でも入っているのだろうか?腹はタポタポと音を立てているにもかかわらず、なぜか手が止まらないのだ。

 

だがこんな幸せは滅多に味わえないわけで、自己新記録への挑戦は続くのである。

 

Illustrated by 希鳳

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