わたし、トリュフ臭い?

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(し、しまった!トリュフ臭い・・・)

 

わたしは今、ゲップをした。

小さく空気を吐き出したので、音はそこまで派手ではないが、それでもシーンとしていなかったことは救いである。

 

こうして、室内の雑踏に紛れてゲップの音はかき消された。だがほんの少しだけ、芳ばしいキノコのようなニオイが漂っている。

――そう、さっき食べたトリュフ風味のナッツのニオイだ。

 

パッケージには「黒トリュフ塩のミックスナッツ」と書かれてあったから、トリュフが入っていたのではなく、トリュフ風味の塩で味付けされていたのだろう。

そもそも、トリュフがそこまで美味いと思ったことはない。しかし我々人間は、あの味こそが「高級食材の象徴」と刷り込まれているため、脳が勝手に反応してしまうのだ。

 

わたしは無類のナッツ好きだが、なかでも燻製ナッツとトリュフナッツがお気に入り。これらを交互に味わうのが、わたし流の贅沢の極みであり、ささやかな幸せを満喫できる瞬間でもある。

 

さて、30分前に食べたトリュフナッツにまぶされていたトリュフ塩のせいで、わたしの周囲がなんとなくトリュフ臭くなってしまったわけだが、この事実に気が付いている人間はいるのだろうか。

運悪く、ここにいる誰もがマスクを着けていないため、息を吸ったらそれなりにトリュフのニオイを感じてしまうのではなかろうか。

こういうときこそ、マスクの存在意義が誇示できる状況なのに――。

 

少し離れたところに佇む後輩に、照れ笑いをしながら近づくわたし。

「ちょっと、トリュフ臭くない?」

そう尋ねるわたしに、後輩は意外な答えを返してきた。

「トリュフって、どんなニオイがするんですか?」

 

なるほど。苦学生ゆえに貧乏な後輩は、トリュフのニオイを嗅いだことがないのだ。

だがこれでは、わたしが金持ちであることを間接的にひけらかしたことになる。こういうやり方は陰湿であり、非常にカッコ悪い。

――よし、うんと下手(したて)に出よう。

 

「ん?なんか臭いキノコだよ、トリュフは」

 

いやいや、ちょっと待て!これでは「なぜこの人は、くさいキノコなど食べたのだろう?」と、逆に怪しまれるじゃないか。

そんなゲテモノ好きだと思われては、先輩としての面目が立たない。ここは威厳を保つべく、適切なフォローを入れよう。

 

「ごめんね、育ちが良いことを自慢しちゃって」

 

何を言ってるのだわたしは!これではなおさらイヤな奴じゃないか。

だが後輩は、キョトンとした顔でわたしを見つめている。きっと、臭いキノコが高級食材だとは思えないため、「育ちが良い」という意味に繋がらなかったのだろう。

 

・・・そういえば今日、わたしはトリュフナッツの前に、生ブラウンマッシュルームを20個ほど食べた。これは単なる偶然だが、立て続けにキノコを大量に食べているわけだ。

とはいえ、そもそもトリュフがキノコだという認識はなかったし、トリュフ風味のナッツを食べたのだから、メインは「ナッツ」でありキノコ繋がりとはいえない。

 

しかし、キノコというのは不思議な魅力と危険を持ち合わせている。

種類によっては毒を含んでおり、神経や呼吸器に影響を与えたり、時には死に至らしめたりもするわけで、全くもって油断ならない。

 

秋口には「殺しの天使」と呼ばれる、純白の猛毒キノコ「ドクツルタケ」が巷を騒がせた。

下痢や嘔吐といった、毒キノコにありがちな症状は数日で治まるが、その数日後には内臓の細胞が破壊され、黄疸や肝臓肥大、腎機能障害、胃腸からの出血など様々な症状が現れ、結果的に死亡するという殺人キノコである。

そこまでしてなぜ、人間はキノコを口にするのだろうか――。

 

そんなことを考えるわたしに向かって後輩が、

「臭くないから、気にしなくて大丈夫ですよ!」

と、笑顔で肩をポンポンと叩いてくれたのであった。

 

・・・そ、そうか。トリュフ臭くないのであれば、まぁいいや。

 

Illustrated by おおとりのぞみ

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