焼菓子好きで有名な私だが、もらって嬉しくないクッキーが存在する。
言うまでもなく、アンコのような豆系は和洋問わずノーサンキューだが、素材ではなく形状について文句があるのだ。
だいたい、
「優雅にちょこっと、嗜む程度がちょうどいい」
なんて、嘘八百の見栄を張る上流階級が許せない。菓子を食うということは、ダイエットだの血糖値だの、健康志向を放棄した証である。
であれば、菓子だけで満腹になるほど大量に食わせてやればいい。本人のお望みどおり、砂糖まみれにしてやればいいのだ。
それなのに、だ。あのラングドシャとかいう焼菓子は、なぜあんなにも薄っぺらいのだ?
北海道銘菓として有名な「白い恋人」は、ラングドシャの間にチョコが挟まっており、それらを個包装して販売している。
こう言ってはなんだが、私にとっては甚だ迷惑な商品である。
薄っぺらくて軽いクッキーが、いちいち個包装されているようでは、食べにくくてしかたない。
さらに開封時に、誤って割れてしまうことが多々ある。そんな苦労をしてまでなぜ、ラングドシャという菓子を食わなければならないのだ。
そもそも個包装の切れ目の場所が間違っている。縦に袋を破れば、中身に触れるに決まっている。つまり、中身の菓子が欠けたり割れたりするのは、必然的な結果なのだ。
ならばせめて醤油の小袋のように、横に裂ける切り口に改良したらどうか。
あぁ、色々と考えるだけで腹が立つ。
このように、私との相性が悪いラングドシャ。正式名称はフランス語で「langue de chat(ラング・ド・シャ)」といい、「猫の舌」を意味する。たしかに、猫の舌のような薄さと丸さ、そしてざらつきは言い得て妙である。
サクサクの歯ごたえと軽い食感が特徴のフランス伝統菓子だが、いかんせん腹に溜まらない。さらにほとんどのラングドシャは個包装されているので、いちいち破っては口へ放り込み、そのくせ5秒で胃袋へと消える忙しさ。
こんなんじゃ、じっくり味わうことも満腹になることも叶わない。
「えー、どうして?ラング・ド・シャ美味しいじゃん」
デタッ!!芦屋生まれのお嬢様が、ラングドシャにケチをつける私に向かって、上流階級の主張をぶつけてきた。
どうやらお嬢様は小さい頃から、おやつと言えばラングドシャを召し上がってきたのだそう。ヨックモックのシガールなど、おやつの定番として飽きるほど食べてきたとのこと。
おやつの定番といえばカールかドリトス、もしくは、たけのこの里だろう!などとは、とてもじゃないが言えなかった。
「友達に手土産でラング・ド・シャを持って行ったら、喜ばれるのよ」
信じられない!!私は心底、お嬢様じゃなくてよかったと胸をなで下ろした。こんな薄っぺらで開けにくい菓子をもらって喜ぶなんて、尋常じゃない!
では私がどのような焼菓子を好むのかといえば、分厚いバタークッキーならば大喜びで飛びつく。たとえば、イギリスのWalkers(ウォーカー)社が発売する「ショートブレッド フィンガー」など、大好物である。
カロリーメイトのような形をした、ウォーカー・ショートブレッド・フィンガー。表面はホロホロとしたテクスチャーでありながら、しっとりサクサクの歯ごたえとバターたっぷり豊潤で濃厚なお味は、それはもう大満足の一言に尽きる。
焼菓子といったらショートブレッド一択。
「でもね、あの薄いクッキーをちょっとずつ前歯で剥がしながら食べるのも、なかなかオツなものよ」
お嬢様がカットインしてきた。ラングドシャをクルクルと筒状に巻いたものを「シガレット」という。その代表作といえるのが、ヨックモックのシガールである。
先に述べたとおり、子どもの頃から食べ飽きるほどシガールを与えられてきたお嬢様は、食べ方までもが独特に進化していた。
おちょぼ口で筒をついばむような、一般人がやりがちな普通の食べ方などするわけがない。前歯を使ってシガールを剥がしつつ、ちょっとずつ楽しむのがお嬢様流なのだ。
(まぁいいや。貰い物のラングドシャを、全部さばけてよかった)
私はお嬢様ではない。よって、小麦に砂糖にバターがたっぷり、糖尿病まっしぐらのショートブレッドが、大好物なのである。
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