いつまでたっても現れない東京タワーへ向かう二人

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都内に住んでいると東京名物に疎くなる・・というのは、都民アルアルだろう。わが家の近所にシャレた飲食店ができたとしても、興味がなければ調査すらしないわけで。

それに比べて、地方に住む人間のほうがそういった情報に敏感だ。そのため「最近できた〇〇の××行ってみて!」と、頼んでもいないのに最先端の情報を知らされることで、興味はなくとも知識としては蓄積されるのだが。

 

とはいえ、東京名物といえばやはり"東京タワー"だろう。

 

 

地方から上京してきた後輩とお茶をしていたところ、せっかくだからどこか観光がしたい・・という話になった。

時刻はすでに夕方であるため、今から浅草や吉祥寺へは行けない。

 

(おぉ、至近距離に東京名物があるではないか!)

 

ここから2キロ弱の位置に、東京名物・東京タワーが存在することを思い出したわたしは、「徒歩30分を受け入れられるならば、いい観光地がある」と打診してみた。

「30分くらい全然平気です!」

というわけで、キラキラと目を輝かせる後輩を連れて、わたしは東京タワーへと向かったのである。

 

城や城址、タワー、神社仏閣といった名所が近所にあっても、あえてそこを訪れようとは思わないのが地元民というもの。

そもそも、観光地はいつでも混雑しているし、近所に住んでいるのだからいつでも行ける・・という思いから、あえて「行ってみよう」という気にはなれないのだ。

それでも毎日、帰宅途中に東京タワーを拝んでいるわたしにとっては、"東京のランドマーク"に対して珍しさよりも愛着がある・・という、なんとも贅沢な環境に身を置いているわけだ。

 

こうして我々は、東京タワーに向かって歩き始めた。

「この方向にあるんだよ」

わたしはANAインターコンチネンタルホテルを指さした。もちろん、目の前にそびえ立つ高層ビルに阻まれて、東京タワーなど見えるはずもない。

 

他愛もない会話を続けながら、桜並木が美しいスペイン坂に差し掛かった。大勢の観光客に混じって、大喜びで満開の桜を撮影する後輩に向かって、

「東京タワーはこの方向にあるよ」

と、アークヒルズ仙石山森タワーの方向を指さした。もちろん、周囲には高級ビル群が立ち並んでおり、その先にある東京タワーなど微塵も確認できない。

 

それからしばらく進むと、麻布台ヒルズが見えてきた。さっきからどこもかしこも超高級住宅街だったが、ここへ来てさらに洗練された高級感が際立っている。

なんせ、麻布台ヒルズの中にはジャヌ東京が入っているのだから。

 

ジャヌ東京とは、世界各地にプライベートリゾートやホテルを展開する、アマングループの姉妹ブランドという位置づけ。

「アマン」が人里離れた自然の中でのリラクゼーションを目的とするのに対して、「ジャヌ」は人とのつながりや遊び心の刺激といった、ソーシャルウェルネスに焦点を当てたラグジュアリーホテルなのだそう。

いずれにせよ一泊20万円は下らないわけで、室内清掃のバイトでもしない限り、一生足を踏み入れることのない空間であることは間違いない。

 

そんな贅沢ゾーンを脇目に、われわれは桜田通りへと向かって坂を下りた。途中にはディオール、カルティエ、ブルガリ、ボッテガなど高級用品店が軒を並べている。

そしていよいよ坂を下り切ったところで、わたしは再び、

「この先に東京タワーがあるよ」

と、後輩に告げた。しかし、目の前にはオランダヒルズ森タワーが君臨し、背後の景色を堂々と隠していた。

 

(もしかしてわたしは、嘘つきか人さらいだと思われていないか?)

 

あと数百メートルで東京タワー・・という場所まで来ているにもかかわらず、スタート地点からここへくるまでの20分間、一度たりともあの「赤白の鉄骨」を見ていないのだ。

純粋な後輩はわたしを信じ切っているが、もしもわたしが悪者だったら、彼女はどこかへ連れ去られる可能性があるわけで、さすがにここまで東京タワーが見えない現状に、不安はないのだろうか——。

 

下心など皆無のわたしだが、それでも一瞬たりとも東京タワーが視認できない現状に、若干の苛立ちを覚えていた。

信じてくれ、わたしは嘘などついていない。東京タワーは本当にあるんだから——。

 

「あーーーっ!!東京タワーだ!!!」

後輩が歓声を上げた。東京タワーへの最後の交差点となる、東京タワー通りを曲がった瞬間、ようやく眼前に東京タワーが現れたのだ。

 

——そう、これこそが東京である。高層ビルに阻まれて、東京タワーすらも隠れてしまうほどのコンクリートジャングルが、大都会・トウキョウの本質なのだ。

 

 

そんなこんなで、とりあえずわたしが嘘をついていないことが証明できて、ホッとしたのであった。

 

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