尿意コントロールという特殊スキル

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生理現象を我慢することはなかなか難しい。

難しいどころか、最終的には無理だろう。

 

しかし、命を賭して任務に就く兵士や暗殺者、ボディーガード、テロリストらはそんな悠長なことなど言っていられない。

 

私は格闘技を嗜み、ピストル射撃とクレー射撃を経験し、性格もクレイジーだ。

つまり、先に挙げた「命を賭す職業」に向いている。

 

だがよく言われるセリフで、

 

「女だからな」

 

ここについて否定しておこう。

 

フィジカルの差や女性蔑視は別として、女には生理現象が多い。

月に一度の生理もそうだが、トイレの回数が多いことも男性と比べられがちな現象の一つ。

 

女性は男性に比べて尿道が短く、尿道を支える筋肉も弱いため、身体構造的に尿が出やすい。

そのため、トイレへ行く回数が男性よりも多いのは致し方ないだろう。

 

しかし、

私はこの部分において圧倒的な自信を持っている。

 

その辺の男の何倍、何十倍もトイレなど行かずに任務を遂行できる。

そう、3日はトイレに行かなくても平気だ。

 

どうやってこの特殊体質(スキル)を身に着けたかというと、小学生の頃にさかのぼる。

 

 

たしか林間学校、というような名称だったと思う。

2泊3日で山にこもり、何らかの訓練を受ける授業だ。

 

貸切バスに詰め込まれ、我々は山へと連行される。

途中でトイレ休憩があったが、全員がトイレへ向かうため長蛇の列。

さほどトイレに行きたいわけではない私は、バスの中からその列を眺めていた。

 

バスに揺られて数時間、ようやく山奥の施設に到着。

見渡す限りの大自然、脱走など不可能な様子。

 

変な虫もいそうだし、刺されたらどうしてくれんだ。

そもそもこんなところで何をさせるつもりだ。

 

小学生ながらに疑問しか湧かなかった。

 

林間学校で何をしたのかは覚えていない。

私の脳裏にあまりに鮮明に焼き付いているのは、そこにあったトイレだけ。

 

林間学校初日の夜、人目を忍んで私はトイレへ向かった。

 

昔からトイレの清潔さに敏感で、いまだに洋式トイレに座る際は除菌シートで拭いてから、またはトイレットペーパーをぐるりと敷いた上に座る。

 

誤解しないでほしいのは、海外や僻地、途上国のトイレは例外ということ。

地面に穴を掘っただけのトイレで用を足したこともある。

裕福な国である日本、という前提での潔癖症だ。

 

トイレの場所へ着くと、そこはいわゆる掘っ立て小屋だった。

火を放ったらよく燃えそうな。

 

恐る恐る入り口のドアを引いて中を覗く。

すると、

水洗トイレではなくボットン便所というやつではないか!!!

 

ある種の衝撃を受けた私は、そのままドアを閉めて部屋へ引き返した。

 

(これは覚悟を決める必要がある)

 

小学生ながらも、戦地へ赴く兵士の気分だ。

そして初日のトイレは断念し、明日改めて出直すことにした。

 

翌日、私はずっとイメトレを重ねた。

あのトイレで用を足すにあたり、どのような手順でどのように行えばいいのか、何度も頭の中で繰り返した。

 

いよいよ日が暮れて同級生らが寝静まった頃、意を決してあの掘っ立て小屋へ向かう。

 

さすがに2日もトイレを我慢するのは体に悪い。

尿意の限界も来ているため、多少のことは目をつむらなければならない。

 

強固な意志を持ってトイレのドアを引く。

目の前に広がるボットン便所。

 

(大丈夫、たかがトイレだ)

 

強く自分に言い聞かせ、トイレの個室へと足を踏み入れた。

 

その瞬間ーー

 

一瞬で尿意が引く経験、というものを味わったことのある人はいるだろうか。

2日間トイレを我慢した人間が、一瞬で尿意を失いスッキリした気分になることなど。

 

小学生の私が目にしたのは、トイレの真ん中で死んでいるデッカイ蛾だった。

 

そのインパクトと言ったら、筆舌に尽くしがたい。

汚い、恐ろしい、怖い、ビビる。

そんなもんではない。

 

とにかく、スッと血の気が引く感じだ。

その感じで、スッと尿意が引いたのだ。

 

 

もはや爽やかな気分となった私は、スキップしながらトイレを後にする。

 

(もう大丈夫、あと1日我慢すればいいだけのことだ)

 

この2日間の葛藤は一体何だったのだろうか。

一瞬で尿意が消失し、軽やかな気分になれたというのに。

 

こうして私は、2泊3日の林間学校で一度もトイレへ行かずに過ごした。

 

 

幼少期の特殊体験、またの名をトラウマから、私は尿意を抑えるスキルを身に着けた。

それ以降、トイレの回数は一般人より格段に少ない。

 

よって、特殊任務に就くにあたり適任と思われる。

 

 

余談だが、3日分の尿はさぞかし大量だったと想像されるだろう。

しかし実際は、大量どころか通常よりも少なかった記憶がある。

尿の勢いも弱く、明らかに膀胱か腎臓にダメージを与えた状態だった。

 

幼少期のトラウマにより、人間離れした尿意コントロールができるようになった、というノンフィクション。

 

Illustrated by オリカ

 

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