まともな冷蔵庫すら置かれていない我が家に、コンビニのレジ横に置いてあるような「上開き型の冷凍庫」が設置されて、初めての朝を迎えた。
自慢じゃないが、広い犬小屋程度の部屋のため、どこにいても冷凍庫が確認できる。
その堂々とそびえ立つ姿からは、家庭用というよりは業務用のオーラすら感じるわけで、ウットリ見とれてしまうほどに神々しい。
今回、タイミングよく届いた大量の手料理を、小分けにして保存するために購入した冷凍庫。
だが何を勘違いしたのか、届いたその日にほぼすべての料理を食べ尽くしてしまったわたし。
(おにぎり20個、食べきってしまった・・・)
こうして、せっかくの冷凍後は空っぽのまま、電源を入れることなく放置されていた。
(そういえば、この黄色いビニールのコードはなんだ?)
電源コードとともに、ビニールで包まれた電線がプラプラしている。説明書を読むと、どうやらアースらしい。
ところが、電化製品を設置したことのないわたしは、リビングにどーんと構える冷凍庫に、果たしてアースが必要なのかどうかが分からない。
(最悪の場合、ゴム手袋をはめて冷凍庫に触れればいいか)
漏電がどのような状態なのかイメージが湧かないため、とりあえずゴムで電気を絶縁すればいいだろう…ということで、アースはほったらかしにして、コンセントだけを差し込んだ。
ブーーーン
すぐさま稼働が始まった。取扱説明書には「ダイヤルを7に合わせてから、2~3時間運転し、庫内が冷えてから食品を入れてください」と書かれている。
もはや入れる食品がないのだが、既存の「ミニ冷蔵庫」の製氷スペースに押し込んであったロックアイス2袋を、冷凍庫の底へ寝かせることにした。
しばらくして、本当に冷えているのかを確認しようと、上部のフタをスライドさせて手を突っ込んでみる。
――冷たい、たしかに冷えている!
これほどまでに強力な冷気を、自宅で感じたことは未だかつてない。
そもそも、冷凍庫(冷凍室)のついていない冷蔵庫しか使用していないため、冷気が漂う感覚を知らないのだ。
しかし今、目に見えない氷点下の空気が、冷凍庫の内部で静かに渦巻くのを感じる。わたしの指先が、手首が、前腕が、微細な冷気に包まれている心地よさよ――。
(おっと、フタを開けっぱなしにしちゃダメだ)
我に返ったわたしは、すぐにフタを閉めた。フタといっても、2枚のプレートを重ねて乗っけてあるだけなので、持ち上げれば簡単に取れる仕組み。
よって、通常は上のプレートだけをスライドさせて、中身の出し入れをするのだ。
まるでコンビニのアイスコーヒーを取り出すかのような動作に、感動を覚えるわたし。面白半分に、何度も開閉を繰り返しては喜びに浸っていた。
しかし夜も更けてきたため、最後に勢いよくフタを閉めると、そのままベッドへ潜り込んだ。
ブーーーーーーーン
わりと大きなモーター音が、静寂を切り裂く。とはいえ、24時間365日除湿器をフル稼働させている我が家において、多少の雑音はまったく気にならない。
新入りである冷凍庫の音など、何日かすれば慣れるに決まっている。
*
――翌朝。
かれこれ5~6時間が経過したであろう「オブジェ」の様子を見に、ベッドから冷凍庫へと直行。すると・・・
な、な、なんと!フタが3センチほど開いているではないか!!
恐ろしいことに、「僅かに」とは言いがたい幅でフタがずれていた。そして開閉部の周囲には、びっしりと霜がこびりついている。
昨晩、あれほどしっかり閉めたはずなのに、なぜ??
慌ててフタを開けると、昨晩寝かせたロックアイスの状態を確かめる。
(うん、問題なく固まっている)
幸いにも冷気は下に沈むため、上部に隙間があってもさほど影響はなかった模様。
取り出し口付近の「霜被害」だけで済んで、本当によかった。
そして今度こそ、間違いなくしっかり閉めようと、勢いよくフタをスライドさせた。
・・その瞬間、なんと、下のフタが弾かれて開いたではないか!
フタは上下ともに非常に軽いプレートでできている。そのため、上のフタを勢いよく閉めた衝撃で、下のフタがズレてしまうのだ。
(たしかに、3センチほどの隙間ができている・・・)
まさかの自然現象(?)に、開いた口が塞がらない。こんな罠があるだろうかー―。
とはいえ霜を放置するわけにもいかない。購入から24時間も経っていないのに、もうすでに霜取りヘラの出番がきたわけだ。
そういえば昨夜、やけにモーター音が鳴り響いていた。あれもきっとこの隙間のせいで、設定温度まで下がらなかったからなのだろう。
とどのつまり、「電化製品は丁寧に扱わなければならない」ということを、冷凍庫から学んだのであった。
コメントを残す