白い褌(ふんどし)

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「目」というものは、顔に埋め込まれているため、前方から上下左右のある程度までを認識することができるが、それ以外の範囲を見ることはできない。

ましてや、自分自身の姿を確認するには、鏡などを使うしかないのである。

 

外出時にどのような服装にするかを検討し、上下のバランスを姿見で確認すると、ややアンバランスだったり、思っていたコーディネートと違ったりすることがある。

そのたびに、鏡に映る自分の姿を脳裏に刻んでは、再びクローゼットを漁り別の組み合わせを考えるのである。

 

この点、SNSで自身の画像を載せるような人は、姿見の前に立つまでもなく、コーディネートが正解かどうかの判断ができる。

無論、「見せ方」などの最終チェックは必要。だが、さすがに頓珍漢な格好にはならないわけで、目が肥えているというかセンスがいいというか、お見事である。

 

わたしがなぜ、急にこのようなことを言い出したのかというと、自分が想像する以上の自分が、鏡の前に立っていたからに他ならない。

 

さすがにある程度の予想はしていたが、ここまでかけ離れたスタイルが誕生するとは思っていなかった。

というか、こんなはずはない。未だに信じられないのである。

 

 

話は変わって祭りについて。

日本三大祭りをご存じだろうか。京都の祇園祭、大阪の天神祭、そして東京・神田明神で行われる神田祭。

神田祭は二年に一度の祭りとして認知されており、奇数の年が本祭(ほんまつり)、偶数の年が陰祭(かげまつり)となる。

 

偶数年である今年は蔭祭のため、日本橋や丸の内を神輿が巡行する「神幸祭(しんこうさい)」や、最高潮の盛り上がりを見せる「神輿宮入(みこしみやいり)」は中止となった。

それでも、年間を通して最も重要な儀式である「例大祭(れいたいさい)」が執り行われ、日本の平和と安全、そして氏子の幸せを祈念した。

 

どんな流れだったかは忘れたが、たまたま本祭の様子をネットで調べていたところ、真っ黒に日焼けした逞しい身体に、真っ白なふんどしを巻いた男の姿が出てきた。

やはり祭りといえば神輿。そして神輿といえばふんどし姿の男たちである。

筋肉を隆起させ、汗まみれになりながらも街中を練り歩く姿は、これぞ男の中の男!という圧倒的な躍動感を放っている。

 

大相撲の土俵は女人禁制とされているが、救命措置などの緊急事態を抜きにすれば、それはそれでいいのではないかと思う。

男尊女卑とか女性蔑視とかいわれるが、では、女性がふんどし一丁で相撲を取れるのかと聞かれれば、答えるまでもない。

さらに、ふんどしではなくてもそれに近い肌の露出をすれば、性的な見方をする輩も出てくるだろう。

 

これらの「問題」を問答無用に解決したいのならば、賜杯などを授与する人間も、ふんどし姿で土俵に上がればいい。これなら女性からも文句はでないだろう。

しかしそれには、授与する人物もそれなりのフィジカルに仕上げておかなければ、地上波で恥を晒すこととなるわけだが。

 

そんなことを考えながら、わたしはトイレから出てきた。このまま風呂へ入ろうと思っていたので、パンツ一枚のほぼ全裸。

 

我が家のトイレは玄関にあり、トイレの向かいの壁には姿見がぶら下がっている。出かける際に、この鏡で身なりをチェックしてから家を出るのだ。

そして、全身が映る鏡はこれしかないため、自宅で全裸の自分を見る機会はほぼない。

 

しかし今、己のパンイチ姿を直視することとなったのだ。

 

今日のショーツはオシャレでセクシーな紐パン。シルクのような上品な輝きを放つホワイトの生地に、サイドが紐でできたTバックのショーツ。

勝負パンツといっても過言ではない。

 

このショーツを購入したきっかけは、インスタで流れてくる広告が目に留まったからである。

モデルは外国人の女性で、筋肉質かつセクシーなボディをさらけ出しながらも、立派なヒップからはいやらしさではなく健康美が伝わってきた。

 

(これならわたしにも履ける!)

 

そう確信したわたしは、速攻でクリックした。色は白だけでなく、黒やグレー、グリーンなど何枚も購入した。

 

尻がデカいわたしにとっては、布面積の少ないTバックでなければ、ショーツとしての機能を果たさない。なぜなら、通常のショーツを履いて歩くと、尻の盛り上がりと歩行による振動とで、ショーツがだんだんずり落ちてくるのだ。

そのため、歩きながら何度もショーツを引き上げることになり、「こんな不快で面倒なことは極力避けたい」と悩んだ末に、布面積の少ないタンガやTバックにたどり着いたのである。

 

ところが、いま目の前に立ってるのはセクシーな女性ではなく、先ほどネットで見ていた神輿を担ぐ男ではないか。

 

己の目を疑うも、鏡なのだから映っているのはわたし以外にありえない。

しかしどう見ても「セクシー」という単語からは程遠い、筋骨隆々のゴツい男が立っているのだ。

しかも単にマッチョという感じではなく、程よくぜい肉のついた「ガタイのいいオッサン」に近いフォルム。

 

にわかに信じられない。このセクシーショーツを、どう履けば肉付きのいいオッサンになるというのか――。

 

念のため、神田祭の男の画像を再確認する。

 

(うん、間違いない。この男とわたしは同じようなフォルムをしている)

 

サムネイル:国指定文化財等データベース「下崎山のヘトマト行事」/文化庁より引用

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