アニメの主人公に必要なポテンシャル

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首が右へ90度に曲がったままの理由は、アレクサから流れてくるネットフリックスのせいだ。わたしは本当に、本当にバカなんだと実感する。なぜなら毎回、同じ手に引っ掛かって首を傷めているのだから。

わたしの浅はかな考えとしては、パソコンを開いて仕事をするにあたり、BGMがあったほうが捗ると踏んだのだ。そのため、適当なアニメを流しながらいい気分で仕事を進めていると、毎回毎回、例外なく毎回、アニメに気を取られていつの間にか朝を迎えるのだ。

 

目の前のパソコンを見ながら指を動かすうちに、右側にあるアレクサで激しい戦闘が始まった。どれどれ、どんなものかな。

――こうしてあっという間に3時間が経過するのだ。

 

どうせ毎回このパターンなんだから、いい加減に学べと自分に言い聞かせたい。もしくは、ネットフリックスはつまらないアニメを流してもらいたい。

・・そうだ、ホワイトノイズチャンネルとして、駄作アニメばかりを流すのはどうだろうか?これならば、クソアニメだと揶揄されることもないし、わたしとしても適度なBGMを手に入れられるわけでお得だ。

 

仕事が止まっていることの言い訳を考えながらも、わたしの首は右を向いたまま戻らない。いい加減にしろ。これじゃまた何もしないまま、朝日を拝むことになるじゃないか!

そんなわたしが夢中になっているのは、東京喰種(トーキョーグール)だ。漫画好きの友人推奨のアニメであり、なによりも完結しているという点に魅力を感じる。人気アニメというのは如何せん、中途半端に終わる傾向にあるから嫌いである。

ここからがいいところなのに!というところでおあずけを食らう、名残り惜しさと不完全燃焼さといったら筆舌に尽くしがたい。面白ければ面白いほど、「次のエピソード」の文字が消える絶望が許せないのだ。

 

キリのいいところまで見たらストップボタンを押すんだ、押すんだ、と何百回唱えただろうか。だがその瞬間は突如訪れた。

それは壮絶な戦闘途中の、一瞬の静寂で発せられたセリフだった。

「お名前・・・聞いてもいいですか?」

対峙する敵に向けて主人公が投げた言葉だ。今はこうして敵対しているわけだが、出会い方や立場が違えば、二人は強い絆で結ばれた可能性もある。

これはアニメあるあるだろう。本当は二人とも戦いたくはないのだ。それでもアニメだから、戦わなければならないのだ。

 

おっと、話が逸れた。なぜわたしがこのセリフで一時停止を押したかというと、名前を聞かれた相手は自分の名前を告げた。「亜門、亜門鋼太朗(あもんこうたろう)だ」と。

その瞬間、わたしの中で緊張が走った。

 

(あ、あもん、こうたろう?・・・こんな難しい名前を、憶えていられるだろうか)

 

もしもわたしが主人公だった場合、この名前を憶えておかなければならない。しかも、生きるか死ぬかの極限状態において、わずか数秒とはいえ貴重な時間を費やしたのだから、男に二言はない。

そしてここで決着がつかなかった場合、再びこいつと戦う日が来る。となればその時、必ずや名前を呼ばなければならない。なんせ向こうはこっちの名前を知っているのだから、必ずや「眼帯、今日こそは決着をつけるぞ!」と言うに決まっている。それなのに、名前を教えてくれと言った自分が忘れてるのでは、恥ずかしいどころか失礼にもほどがある。

「あ、あなたの名前を、忘れてしまいました」

こんなセリフを主人公に吐かせてはいけない。せっかくのいいムードが台無しになる。つまり、主人公というのは決して相手の名前を忘れてはならないのだ。

 

とてつもないプレッシャーを抱えながらも主人公は戦い続けるわけで、もしもわたしが主人公だったならば大変なことになる――。そんなことを考えた途端に、思わず一時停止を押してしまったのだ。

戦いに集中しながらも、相手の名前を覚えなければならない。アモンコウタロウ、アモンコウタロウ、アモンケンタロウ・・・アモン、ミヤモトアモン?

 

ダメだ、わたしが主人公を務めたらすぐにアニメが終わる。

 

Illustrated by 希鳳

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