色覚異常か血行不良か、はたま皮膚の病変か。

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突然の出来事というのは、想定範囲内であれば「あぁ、なるほど」で済むが、思い当たる節がいくつもあると、腑に落ちるまでに時間がかかる。

殊に不安要素が多い場合、あれこれ最悪のケースが想起されるため、一瞬ではあるが深い拍動に寿命が縮まる恐怖を感じるのである。

 

なんせわたしは、ここ最近"黄色っぽい果物"を大量摂取し続けているため、とうとう手のひらや顔が黄色く変色してしまったのだ。時期的にも柿やみかんのシーズンであり、果物売り場は鮮やかなオレンジ色で彩られているわけで、それを無視してなにを食べろというのか。

とはいえ、さすがに11月の時点で手や顔が黄色いのはいただけない。せめて来年になるまで耐えてもらいたかったが、今年は柿の摂取量が異常に多かったため、新年を待たずして黄色人種の象徴となってしまったのだ。

 

そんな"黄土色の皮膚"のわたしは考えた。柑皮症は少なくとも数か月は持続するわけで、今すぐみかんを止めたところで、元来の肌の色に戻るのはかなり先のこと。

であれば、別の色を加えることで黄色味を抑えることはできないだろうか——。

 

ここ最近、「イエベ」「ブルベ」という言葉を耳にする機会が増えた。これはパーソナルカラーの色相のことで、イエベはイエローベース、ブルベはブルーベースを意味する。

"オータムタイプ"のわたしはどうやらイエベに分類されるようだが、さらに輪をかけてイエローになってしまっては、シンプソンズかスポンジボブに間違われる可能性がある。

そこでわたしは「黄色の反対色を食べたらどうだろうか?」と思い立ったのである。

 

黄色の反対色、つまり「青紫」の食べ物といえば、巨峰やブルーベリー、茄子、ブルーチーズあたりが思いつく。だが巨峰とブルーベリーは旬を過ぎているし、ブルーチーズも青かびの部分はわずかでほとんどが白いチーズだ。さらに茄子は調理が必要なため論外。

——となると、青紫に似た色の食べ物を選ぶしかない。

というわけでスーパーへ出かけたわたしは、緑色だが"青リンゴ"と、"青魚"の代表であるサバ缶とオイルサーディン(イワシ)、そして緑色が美しいずんだ餅と抹茶チョコを購入した。

 

わたしもバカではないので、これらブルー系の食材を食べたからといって、すぐに肌の黄色が中和されるとは思っていない。なんせ2ヶ月という期間を経てここまで黄色く染まったのだから、二・三日でどうにかなるはずがないのだから。

それでも、何もしないよりは行動に移したほうがいい。どうせ無駄だと分かっていても、青色や緑色の食材を食べておくほうが諦めもつくだろう。

 

帰宅するとすぐに、わたしは青りんごに齧りついた。青りんごは皮が緑色なのでここが重要となる。中身は通常のリンゴと同じく白っぽい黄色なので、大した期待はできないため、とにかく個数を消費するしかないのである。

次に、サバ缶とオイルサーディンを交互に食べた。もはや青色の部分はどこにも存在しないが、青魚が持つ遺伝子レベルでのポテンシャルに期待するしかない。

そして最後に、ずんだ餅と抹茶チョコで締めくくった。この二つはオマケなので、こいつらがわたしの皮膚の色を戻してくれるとは思っていない。なぜなら、抹茶など相当な頻度で食べているにもかかわらず、柿とみかんであっさり黄色くなってしまったのだから、役立たずにも程がある。

 

(よし。しばらくの間は、青や緑に由来する食材を積極的に食べていこう・・)

 

 

ジムでシャワーを浴びたわたしは、自分の目がおかしいことに気が付いた。まさかの色覚異常があらわれたのだ。

ジムの照明が明るすぎるせいで、一時的に色覚判断が鈍っているのかもしれない。いや、ここ最近やたら視力を酷使してきたため、そのツケが回ってきたのかもしれない。

あれほど目は大切にすると決めていたのに——。

 

恐怖で背筋がゾッとした。だが、ふと目の前の鏡を見るとわたしの顔は相変わらず黄土色をしているし、瞳孔は黒くて結膜は白い。ということは、これは本当に「青い」ということか?

 

いったいどこが青いのかというと、わたしの腕だ。なぜかわたしの両腕が、真っ青に変色しているのだ。しかも美しいブルーではなく、くすんだ青色でややグレー味を帯びている。だからこそわたしは、己の色覚異常を疑ったのだ。

しかしそれは違った。本当にわたしの腕が青いのだ。腕全体に満遍なく、極自然な青さが広がっており、言うなれば"まさに病的"。いや、本当にとんでもない病気なのではなかろうか——。

 

そもそもわたしは、大病を患ってもおかしくないほど、最低最悪の食生活を繰り返している。しかも昨日から、青色の食材を中心に摂取しているわけで、ジムを訪れる途中にブルーベリークッキーを頬張ったことも影響したのかもしれない。

(マズい、マズいぞ。こんな不健康な肌の色をした人間など、見たこともない・・)

 

焦りと恐怖からワナワナと震えるわたしは、この異常な肌の色についてスマホで検索しようと、リュックに手をかけた。その瞬間、足元に青色の道着が脱ぎ捨てられていることに気が付いた。

 

(・・・そういうことか)

 

 

人間の皮膚が変色するには、日焼けを除けばある程度の期間を要するのである。ダイエットや筋トレがそうであるように、そう簡単に変化が現れるはずもないのだ。

 

llustrated by おおとりのぞみ

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