(まさか、あらたな能力に目覚めたのではなかろうな・・)
自宅のトイレへピットインしたわたしは、どこからともなく聞こえる・・というか響いてくる"スマホのバイブレーション音"を察知した。だがここへはスマホを持ち込んでいないし、どちらかというと壁やテーブルを伝って響く「振動音」という感じ。
(・・いや、さすがにそれはない)
わたしのスマホはソファの上だし、過去のスマホは万年充電態勢でデスク横に立てかけてある。よって、バイブの振動が伝わるとすれば先代のスマホだが、ここ——つまりトイレからかなり離れた場所にあるスマホの振動が、ここまでハッキリと明確に伝わるとは思えない。
たとえば、トイレと繋がる通気口の近くに置かれていたり、トイレの壁とスマホを立て掛けた壁が繋がっていたりすれば別だが、残念ながらそういった好条件は成立しない。むしろ、スマホが立て掛けてあるのは壁ではなくピアノの側面であり、そのピアノは壁とも床とも設置していないため、やはりスマホのバイブレーションがトイレまで伝わるはずがないのだ。
だとしたら、考えられるのは——空耳。
スマホ保持者ならば、誰もが一度は経験があるのではなかろうか。震えてもいない自身のスマホが、あたかもメッセージを受信したかのように振動したと錯覚してしまう現象・・そう、ファントム・バイブレーション・シンドロームだ。
また、完全なる錯覚のみならず、周囲の人間が同じスマホを所持していると、微かに響くあの音が自分のスマホの振動なのではないか・・と勘違いすることもあり、咄嗟にポケットに手を当てては「違ったか・・」と安堵(?)する経験を幾度となくしてきた。同様に、同じ勘違いをした者同士で苦笑いを交わしたこともあり、やはり多くの者がファントム・バイブレーション・シンドロームの傾向にあるのだろう。
というわけで、よくある勘違いだった・・ということで一件落着となるはずだったが、なんと、立て続けに二度もバイブ音を察知してしまったのだ。こうなると、空耳でも勘違いでもなく、紛れもない事実——。
とはいえ、スマホのバイブに似た振動音がこの世に存在しないとは限らない。そういえば過去に、近所で行なわれていた解体工事のドリル音が、やけに着信の振動と似ていて何度も騙された記憶がある。
そしてマンションというのは、「隣接する部屋からの音や振動よりも、別の階からのほうが伝わりやすい」という特徴を持つのだそう。よく「下の住人がうるさいから行ってみたら、だれも居なかった」という話を聞くが、あたかも真下から聞こえるが発信源はそこではない・・という場合が往々にしてあるわけで。
だからこそわたしは、「トイレの通気口から聞こえてくる、別の部屋もしくは外で発せられた、スマホのバイブのような振動音」を聞いたのだろう。空耳ではなく、実際に振動音を聞いたのだ——これならば合点がいく。
妙に納得をしたわたしは、トイレから出ると自信満々にスマホを確認した——ほらね、やっぱり通知はきていない。そして念のため、もう一つのスマホである先代のiPhoneに手を伸ばしたところ・・・ウソだろ。
なんと、先代のiPhoneに3件の通知が届いていたのだ。こちらはWi-Fi経由ならばネット接続ができるため、自宅にいる限りはSNSの通知を受信することができるのだ。そして見事に時間もメッセージの数も一致する履歴を残しており、もはや疑う余地もない。
(やはりあれは、このスマホのバイブ音だったんだ・・・)
だとしたらなぜ、あんなにも離れた距離であれほどまでにハッキリと聞こえたのだろうか。同じ空間にいてもそこまで大きな振動音はしないが、なにかを伝って響いたわけでもなく、当然ながら通気口も存在しないのに、なぜわたしはハッキリと三度のバイブ音を聞いてしまったのだ——。
ということは、やはり"わたしが目覚めた"のかもしれない。遠くの音を拾うことができる"驚異の聴力"を手に入れた・・ということなのかもしれない。しかしながら、そんな能力がなんの役に立つというのか——。
特殊能力が開花したとはいえ、さほど嬉しくはない気分で迎える正月なのであった。
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