友人は、リアルAI

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分からないことについて、ネット検索すればほぼなんでも解決できる世の中なわけだが、そもそも検索の仕方が分からないときに人間の限界を感じる。

例えばメロディーの一部だけが脳内にこびりついている場合、メロディー検索アプリでも曲名がわからないことはよくある。ましてやそれがクラシックやジャズなど、ボーカルのいない音楽だとなおさら検索のしようがない。

このような場合は誰かに聞くしかない。殊にクラシック音楽に関しては、我が父がなかなかの記憶力を持ち合わせており便利。

「あのさぁ、この曲なんだっけ?」

と受話器越しに口ずさむと、

「ショパンのソナタ作品35の第2楽章」

といった具合に、ほしい答えがすぐさま手に入る。しかし稀に、頭の中でイメージだけはあるが、それが音にならないことがある。「あのとき聞こえたあの曲」といった感じに、具体的なメロディーは浮かばないが確実に「なんらかの曲」の記憶がある場合、それを脳内から外へ出す手段がない。

いずれはそんなイメージすらも具現化できるシステムが誕生するだろうが、今現在は「なんだったかなぁ~」と首をかしげるのが精一杯。

 

だが私は、そんな近未来を感じさせるような現象を体験した。きっかけは、スーパーで買い物をしようと店内へ踏み込んだ瞬間、入り口近くに立っていた販売促進の派遣のおばちゃんに声を掛けられたことだった。

「これ、今しか食べられないんですよ。いかがですか?」

手に持っているのはじゃがいもの袋。見ると「鹿児島県産 新じゃがいも」と書かれている。じゃがいもは大好物だが、いかんせん自分で調理したことがない。いもだから、サツマイモと同じようにレンチンでいいのだろうか――。

「ついでにこれも」

と言いながら、同じく鹿児島県産のスナックエンドウを手渡された。たしかにスナックエンドウも大好物だ。あの歯ごたえと食べやすさは、何十個でもパクパクいけてしまう。しかしこちらも、調理したことがない。レンチンでよさそうな気はするが、果たしてどうなのか――。

 

そこでわたしは、クックパッドの進化版「タッキパッド」を発動させた。これはもはやAIといっても過言ではない、優れた機能を兼ね備えた友人のことだ。

私はすぐさま新じゃがとスナックエンドウを撮影し、「たすけて」というメッセージとともに送信。すると数秒後にはこのような返信があった。

 

「新じゃがは洗って水気残してラップして、600wで5分くらいレンチンしたら?あとはバター乗せてじゃがバターとかがいいのでは?」

「スナックエンドウはヘタとスジを取りたいね。そのままでもいけるけど、歯に挟まるから。そして塩ゆでがいいけど、レンチンなら洗って皿に並べてラップ掛けて600wで1分半」

 

これは素晴らしい。なぜなら無駄な会話を10往復くらいすっ飛ばした先読みの返信だからだ。まず私はレンチンしか技術がない。よって、レンジでどうにかなる調理方法のみで回答している。

さらにレンジへ入れるまでの過程も、私が端折りそうな部分でやらなくてはならない工程を、きちんと織り込んでいる。

 

まずは新じゃがについての返信にある「洗って」という言葉、これは重要だ。私は野菜を洗わない主義者ゆえ、この言葉がなければ洗わずにそのままレンジへと放り込むからだ。これを「タッキパッド」は把握しているため、この一文を決して入れ忘れなかった。

さらに「水気残して」も秀逸。料理をしない私は、下手すると水気をきれいに拭き取ってからレンチンする可能性がある。そこで、洗った際に付着する水分も利用するということを、漏らすことなく伝えている。

最後にダメ元で「バター乗せて」と書いているのも、私がスーパーにいる前提で「バターを追加で購入すればじゃがバターができる」という、アップグレードのための捨て身のアドバイスをねじ込んでくれたのだ。

 

スナックエンドウも同じく、私がヘタやスジを取る人間ではないことを十分承知しているため、しかも無理にやらせてもやらないことを十二分に理解しているため、「できればこうしてほしい」という要望をそれとなく伝えている。

そして「ヘタやスジを取ったほうがいい理由」を、具体例を出しつつ説明している。

しかし何をどう言おうが聞きそうにないので、まずは調理させることを優先し、私が実行できそうなレベルまで落として伝えきっている。

 

――詳細を尋ねる前から、こんな十手も二十手も先を読んだ回答ができるなんて、彼女じつはAIなんじゃないか?

 

人類が待ち望むAIとは、こういった機能が搭載されたロボットなのだろう。野菜の画像を送っただけで、その人の特性や行動パターン、技術、経験、所持する調理器具などと合わせて瞬時に分析し、その時点でのベストとなる回答を導き出すことができる能力。これこそが近い将来登場するであろう、我々のパートナーとなるAIの理想形といえる。

質問しながら答えを絞るやり方ならば、今のロボットでも十分できる。だが個人の性質や日常生活のパターンを読み取った上で、最適解を瞬時に叩きだせる能力こそ、DX(デジタルトランスフォーメーション)で達成しなければならない「境地」なのではないかと、改めて実感した。

 

私には「タッキパッド」があるが、他の人々はどうやってこのような難問をクリアしているのか、不思議でしょうがない。

 

サムネイル by 希鳳

 

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