受け入れがたい後悔と怒りで顔が歪む私

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わたしは今、久しぶりに後悔で顔が歪んでいる。

後悔というのは、取り返しがつかないからこそ強く深く刻み込まれるわけで、「悲しい」や「ムカつく」といった感情とは明らかに異なる性質を持ち合わせている。そして今、適切なキーボード操作も憚られるほど、己の横着かつ愚鈍で怠惰な性格を呪うのであった。

(・・クソッ!今からでも時を戻したい!!)

 

なにをそんなに悔やんでいるのかというと、数時間前に受験したWeb試験における大失態が原因。無論、テストの点数がいいとか悪いとか、そういうことではない。むしろ、問題文を読むことができて解答欄を埋められたならば、その結果が不正解だったとしてもなんら悔いはないわけで。

だがわたしは、問題文すら読むことなく・・要するに、解答欄を空白のまま提出せざるを得ない状況に陥ったのだ。とはいえこれも自業自得、誰のせいでもないわたし自身の落ち度が招いた結果である。だからこそ反省し、次回に活かせばいいじゃないか——なんて生ぬるい気持ちには、とてもじゃないがなれない。

 

わたしは、いつ死んでも悔いのない人生を歩んでいる。それだけが誇りであり自信であるが故に、過去を振り返ることはしない。だからこそ、「残り時間2分」という数字を目にした瞬間、あと20問以上残しているこの状況がなにを意味するのか、理解できても受け入れることはできなかったのだ。あぁ、なぜ試験時間を確認せずに始めてしまったのだ——。

 

わたしが大失態を犯したテストが、一体なんの試験なのか気になる人も多いだろうが、Web試験ゆえに実施期間が数日間あるため、現段階では公にすることは控えさせてもらう。だが、内容としては「適性検査1,2と学科試験、作文」という四種類の試験を受けたわけで、これは学生時代や社会人初期に"得意中の得意分野"として、自信満々にこなした過去がある。

中でも、適性検査で使われるSPI(Synthetic Personality Inventory)は、これはもう十八番(おはこ)といっても過言ではないほど、スピードといい正答率といい驚異の結果を叩き出してきたわたし。制限時間などあってないようなもので、わずか5~10分で解答してしまうほど、早食い競争に近い感覚でスラスラと解き進めることができたのだ。

 

——それにしても、当時のSPIは圧倒的に楽しかった。誰にも負ける気がしない上に迅速かつ正確に答えられたのは、滅多に使うことのない集中力とゾーンに入るかのような精神力の賜物だろう。IQテストも同じだが、解く楽しみのようなものがアレらにはある。

そんな得意種目に近い内容が出るとは知らずに、わたしは「試験スタート」のボタンをクリックしたのである。

 

(あれ?思っていたのと違うな。今年から変わったのかな・・)

事前に聞いていた試験内容は、中学から高校程度の国語、数学、歴史、地理か現代社会だった。そして一度だけ過去問に挑戦してみたのだが、数学の公式(定義)などすっかり忘れ去ったわたしは、「マイナス2×マイナス2が、なんでマイナス4なのか」が分からぬまま、そっと過去問を閉じたのであった。

そんなこんなで戦々恐々としながらも、必死に数学の公式を詰め込み、付け焼刃で歴史を漁り、あとは択一の神に委ねるしかない・・と覚悟を決めていた。ところがどうだ、蓋を開けてみればこの温度差よ!

 

・・しかし、この時点でわたしは「これは学科試験ではなく適性検査なのだ」ということに気づいていなかった。なんせ、試験開始前に「よく読んでください」と書かれた注意事項を、一文字も読まずにスタートボタンをクリックしたのだから当然のこと。

そしてこの適性検査の制限時間が何分なのか、確認せずに鼻歌まじりで解答を始めてしまったのである。

 

(あ、そうだ。後で答え合わせするために、数字の計算はきれいに書いておこう)

久しぶりに握ったボールペンで、柄にもなくゆっくりとキレイな字を綴るわたし。こんな簡単な問題ばかりなら、満点合格間違いなしだわ——。

 

しばらく解き進むと、今度はさまざまな展開図が現れた。設問は、展開図を組み立てたときの形状を選ぶものだが、コレ系の問題は元来得意なわけで、ニヤニヤが止まらないままじっくり丁寧に解答欄を埋めていった。

ほかにも言語系の問題をいくつか解きながら、ふと画面の端でカウントダウンを続けるタイマーの存在に気がついたわたしは、そこに示された数字が理解できなかった——あと、2分だと??——

 

全部で何問あるのか、そして制限時間が何分なのかを確認しなかったわたしは、慌てて画面をスクロールすると・・・一気に青ざめた。

(あ、あと20問は残っているじゃないか)

わたしは鬼の形相で画面に食らいついた。もはや瞬間的に解いていかなければ間に合わないわけで、しかもペンで塗りつぶすのではなくクリックで入力する方式ゆえに、スムーズさに欠けるというハンデを背負わされている。

極限の集中力を引き出そうにも、己の不甲斐なさに涙が出そうになる。なぜわたしは、注意事項を読まなかったのだろう。よく読んでから始めれば、こんな時間配分のミスなどしなかったはず。ましてやこれは、わたしの得意分野であるSPIじゃないか。しかも、残る問題はどれも簡単で、幼稚園児でも解けるであろうレベル——。

 

(そういえば受験のとき、まずは問題を全部見渡してから、その日の気分で虫食い式に解いていったっけ・・。とくに問題数の多いテストは、確実に点数が取れる問題から答えるのが定石だったはず。どうせ同じ1点なんだから、結果を残すためには当たり前の方法じゃないか・・・)

 

そして制限時間がくると、容赦なく画面は閉じられた。こうしてわたしは、全問解答することなく、適性検査を終えたのである。

 

 

なぜ余裕ぶっこいて「丁寧に解こう」などと思ったのか、それより何より、なぜ注意事項を一文字も読まなかったのか、悔やんでも悔やみきれないほどの怒りと絶望が押し寄せてくる。

わたしの人生において、もう二度とこのようなテストを受ける機会は訪れないだろう。今回だってまさかの受験だったわけで、そう考えるとなおさら悔しさが込み上げてくる。

どうせ0点でも、せめて解答が間違ったことによる失点ならば納得できる。だが、答えることなく失点するなど愚の骨頂。ましてや得意分野での大失態——。

 

今夜は眠れそうにない上に、やけ食いでもしなければ平常心を保てないであろうわたしなのである。

 

Illustrated by 希鳳

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