コロコロギミック

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あまりに酷使したせいか、我が家のエアコンが壊れた。季節的にセーフといえばセーフだが、朝晩で気温が一桁台となるとさすがに厳しい。ちなみにわたしの部屋は狭いので、側転したら壁にぶつかるような間取りである。そんな狭さにもかかわらず、なぜかエアコンは2基設置されているのだ。

「ならばもう1基を稼働させればいいじゃないか」

おっしゃる通り。だが「もう1基」は、なぜか送風口がベランダに向かって取り付けられている。さらに天井ギリギリに埋め込まれているため、アイツから出る風はすべてベランダへ送り出されているのだ。

それでも稼働させないよりはマシだと思い、リモコンのスイッチを押す。しばらくするとブーーンという音とともに、かなり久しぶりにこっちのエアコンが動き出した。耳をすますと勢いよく風が出る音がする。

 

わたしはソファに座ると、部屋が暖まるのを待つ。じっと待つ。何分でも待つ。

(・・・いっこうに暖まらない)

しびれを切らしたわたしは、スクっと立ち上がると天井に向かって両手を伸ばした。指先に微かにエアコンの風が当たる。

(・・・あ、暖かい)

そう、床上2メートルを暖めている愚か者こそが、もう1基のエアコンなのだ。

 

 

もうかれこれ2時間、フローリングとにらめっこをしている。24時間365日酷使され続けた結果、体調を崩しダウンしてしまった相棒(エアコン)の治療が、明日の朝行われることになった。それに伴い、我が家の大掃除が必要となったためだ。

 

自分以外の人間がこの家に足を踏み入れることなど滅多にないため、わざわざ大掃除をする必要はない、という考えで生活しているのだが、まれに今回のように赤の他人が踏み入ってくることがある。

前回はおよそ1年半前、ピアノの搬入で男二人が押しかけてきた。およそ250キロのピアノを上手いこと運び込んでくれたわけだが、あの日以来の訪問客となる。

 

家電製品がほとんど存在しない我が家の掃除用具といえば、コロコロ一択。コロコロを駆使してどんな場所でもキレイにしてしまうテクニックは、長年狭い家に住み続けた者だけが身に着けられる妙技といえる。

たとえばフローリング。粘着力の強いコロコロを転がせばビーーッと貼りつき最悪な事態となる。さすがにフローリングが剥がれることはないが、下手に剥がすとコロコロの残骸がこびりついてしまい、シール剥がしを塗布することになる。

 

そこへきてわたしは、そんなヘマは一切しない。フローリングを撫でる前に、自分の衣服を一撫ですればいいからだ。繊維やホコリでコロコロの表面を軽くコーティングしておけば、フローリングを転がしたところで貼りつくことはない。生活の知恵ってやつだ。

 

「では、コロコロが入らないような狭い隙間はどうするんだ?」

 

チッチッチッ。そういう場合は新たな掃除用具を作り出せばいい。しかも材料は無料で大量に落ちているもの。その正体とは――。

答えは「ホコリの塊」だ。

ホコリをかき集めて、ちぎったパンほどの大きさにする。それを使ってさらにホコリを絡めとるのだ。もちろん手を隙間に突っ込んでカサコソやるのだが、それでも届かない場合は傘を使えばいい。傘の先端でホコリの塊をツツーっと押し込み、何往復かすればキレイに回収できる上に、さらに大きなホコリの塊となって戻ってくるから一石二鳥だ。

ベッドの下や本棚の裏など、狭くて距離がある場所はこれでバッチリ。

 

このようにして、他人が侵入してきた際に目につく場所の掃除は、コロコロとホコリの塊でクリアできる。

あとは、無造作に転がっているミカンやサツマイモ、ジャガイモをかき集めて、緊急避難的に浴槽へ放り込めば大掃除は終了だ。

 

 

しかし思い返せば腹が立つ。エアコンが壊れて痛い思いをしているのはこのわたしなのに、追い打ちをかけるかのように、なぜこんな夜中に業者のために大掃除をしなければならないのか。

とはいえ普段の室内状況では、他人からすると衝撃的で多くの問題を抱えているため、掃除をしないわけにもいかないのだが。

 

(冷媒回収技術者とガス溶接作業者があれば、エアコン修理は自分でもできるのか…)

 

いや、やめておこう。

 

サムネイル by 希鳳

 

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