カピバラに会うために南東北へ遠征、が間違っていた

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――しまった。

カピバラマニア、といったら本職に怒られてしまうが、少なくとも一般人よりはカピバラに執着しているわたしが、カピバラの生活環境を理解していなかったせいで大失態を犯した。

 

 

カピバラは南米の川や湖、沼など水辺の草原を中心に生息する、齧歯類としては世界最大のネズミである。

ちなみに「カピバラ」という言葉は、先住民であるツピ族の言葉で「草原の支配者」という意味があるのだそう。なんと壮大なネーミング。

さらに和名は「鬼天竺鼠(オニテンジクネズミ)」ということで、名前だけを見たら「どれほど恐ろしい風貌のネズミなのか」と身構えてしまうだろう。

 

ところが、「名前負け」なんて言ったらカピバラに失礼だが、ユニークな見た目と静止画のようにじっとしている行動パターンは、殊に日本人から愛されている。

とくにこのシーズン、温泉につかるカピバラは冬の風物詩となっており、シュールでありながらもどこかほっこりするのであった。

 

そしてわたしは、満を持して「湯船でくつろぐカピバラ」に会いに行こうと、張り切って宿を予約した。これにより、朝から晩までじっくりとカピバラを観察できる。

しかも泊りで行くとなれば、カピバラとしても「風変わりな人間」と連日対面するわけで、さすがに記憶に残るかもしれない。そうなれば、わたしとカピバラとの距離もグッと近づき、より深い交流が可能となるだろう。

 

そんな明るい未来をイメージしながら、関東近郊のカピバラ温泉として有名な、那須どうぶつ王国への、一泊二日の「遠征」を計画したのである。

 

今思えば、わたしが初めて生カピバラに触れたのは、那須どうぶつ王国だった。あの時も比較的寒い季節だったと記憶している。

その証拠にカピバラたちは温泉に浸かり、それを見守る人間は震えながら羨ましそうに眺めていた。

 

(北関東、いや、南東北だもんな。ここは)

 

那須といえば栃木県の最北端。ちょっと北上すれば福島県である。

関東地方の中では、群馬・茨城とともに「北関東」のカテゴリーに入る栃木県。なかでも那須に住む友人らは、頑なに「北関東」を誇示するから面白い。

 

栃木県の県庁所在地である「宇都宮市」へ行くのと、福島県の中央に位置する「郡山市」へ行くのとが、ほぼ同じ距離の那須町。

さらに、那須高原インターチェンジ(栃木県)から白河インターチェンジ(福島県)まで、ものの10分で到着してしまうのだ。

これはもはや「南東北」と呼んだほうが、県外の人間には正確に伝わるのではなかろうか。

 

そんな地理的条件の那須町を、わたしは侮っていた。

 

カピバラとの触れ合い時間を十分確保するべく、人が多い土日を避ける日程で遠征を計画した。そして、中でも客が少ないであろう「水・木」の二日間に絞り、朝から晩までカピバラ三昧を満喫する予定を立てたのだ。

 

那須町には、カピバラと触れ合える場所が二カ所ある。カピバラ温泉の代名詞・那須どうぶつ王国と、那須サファリパークだ。

両園とも距離は離れていないので、カピバラをハシゴできる贅沢な環境である。

 

ところが、南東北に位置する那須町の冬は、寒さが厳しく雪も積もる。そのため、営業時間と定休日が「冬季スケジュール」となるのだ。

そしてお察しの通り、12月はいずれの動物園も「水・木」が定休日となっていた。

 

那須に宿を予約したわたしは、紛れもなくカピバラの近くに宿泊することになる。数キロ以内にカピバラがいるわけで、都内に比べたらかなり身近に感じることができる。

だが、それだけだ。

カピバラを見ることも触ることもなく、わたしは那須を後にする。カピバラが温泉でくつろぐ姿を拝むために、わざわざ南東北まで足を伸ばすのだが、結果としてカピバラと対面することなく帰京するわけだ。

 

いったい、何のために・・・。

 

 

大事な予定を立てる際には、前もって入念に調査を行う必要があると、改めて思い知らされたのであった。

 

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