昨日、見事に脱皮を果たしたわたし。だが今日は、これといって変化のない一日を過ごした。
それでも「なにか珍しい現象は起きなかったのか?」と問われれば、「寒さと乾燥のせいで、指先に触れた水が静電気で弾け飛んだ」という程度の自然現象しか捻り出せない。ごくごく平凡なエピソード。
指つながりで一つ。
季節は関係ないが、紙で手指をカットした経験のある人は少なくないだろう。あとはコンビニで売っているスイーツの入れ物(合成樹脂)なども、フタを開ける際に指先を傷つけることがある。しかし刃物でもないのに、なぜ紙や樹脂で人間の皮膚が切れるのだろうか。
わたしはその昔、完全犯罪と称していくつかの殺人方法を編み出したことがある。
ありがちではあるが「つらら殺人」なんてのは、いの一番に思いついた方法だ。実家が長野のため、冬になればいくらでもつららが手に入る。つまり、長野県民ならば誰もが一度は企んだことのある、殺人の定番といえる。
とはいえ実際のところは、太いつららが落ちてきて下敷きとなり、命を落とした男性のニュースが記憶にあるので、そのあたりから派生した思いつきだろう。
つららは、立派なものだと2メートルを超えるツワモノもいる。これは一般的ではないが、市内の民家の軒先に1メートルほどの半透明の氷塊がぶら下がっていたとしても、特に珍しいことではなかった。
そして昼間、気温が上がると屋根の上に積もっていた雪が溶け、ドサドサっと音を立てながらつららを巻き込んで落ちてくる。そのタイミングで軒下をウロウロしていると、雪やらつららやら、思わぬ自然災害に巻き込まれる可能性があるので気を付けなければならないのだ。
つららを凶器として使用するメリットは、なんといっても「溶けて消滅する」に限る。太くて強固なつららの先端をさらに尖らせ、頸動脈を一気に貫けば殺人が成立する。あとはつららを溶かしてしまえば、証拠となる凶器が自然消滅するわけで、自分の姿さえ見られなければ逃げ切れる。
とはいえ狩猟のプロでもないかぎり、生き物を切り裂く行為というのは困難を極める。もしくは犯行直前につららがポッキリ折れてしまえば、それこそ返り討ちに遭いかねない。よって、あまり良案とはいえない。
そしてもう一つの殺人が「紙」を使った方法だ。小学校の頃、プリント用紙で手を切ったわたし。紙のフチがスッと指をかすめた瞬間、
「やっちまった!」
と顔をしかめると同時に紅い血がにじみ出る。だが保健室へ行くほどでもないので、とりあえず指に吸いつき止血を試みる。しばらくチュウチュウしながら思うのは、
「これって、場所が場所なら死ぬのかな」
ということだった。だが紙で手を切る程度の傷など所詮は軽傷。血管を切断するほど深く切れるとは思えないし、殺人が可能なほどしっかりとした紙を用意すること自体が難しいだろう。
余談だが、紙で手を切るとなぜかやたらと痛く感じるもの。なんと、あれにはれっきとした理由があるのだそう。
その一つに「侵害受容器」という、圧力や温度を感じる仕組みが関係している。指先の単位面積あたりの侵害受容器の数は、他の部位と比べて多いため、指先が傷つく=侵害受容器が傷つくことにより、他の傷よりはるかに痛みを感じるのだそう。
さらに紙は、刃物と違い端の繊維がギザギザしている。つまりノコギリで切り裂いたような状態となり、余計に痛みを感じるのだそう(参考:正文社印刷所)。
おぉこわっ!読んでいるだけでも指先が痛くなる。
*
そして今、わたしは風呂場にいる。
めずらしく髪の毛を洗っていたところ、なんと、指先が切れたのだ。元から傷があったわけでも、髪の毛に刃物が付着していたわけでも、シャワーから紙が流れ出たわけでもない。
ただ普通に、髪の毛をガシガシ洗っていたところ、人さし指が急にスパッと切れたのだ。
(紙ならぬ、髪で指が切れる・・・?)
しばらく呆然としながら指を見つめ、「同音異字の間違いじゃないか?」と一人突っ込みをしながら、再び手を動かし洗髪を続けたのだった。
サムネイル by 希鳳
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