私はそもそも頭がいい方ではないのだが、中でも記憶力に壊滅的な障害を抱えている。
先日、ずいぶん久しぶりに高校の友人からメッセージをもらった。
クラスメイトではなさそうだが、彼女の名前はちゃんと憶えている私。友人は自ら「10組」であったことを名乗るが、果たして私は何組だったのだろうか?
「んー、2組か3組だったと思うよ」
なるほど。そんな記憶は微塵も残っていないが、彼女がそう言うのだからきっとそうなのだろう。
そういえば、同級生の名前を一人も思い出せない。そもそも同級生など存在したのだろうか?
高校時代の友人といえば、部活のメンバーが思い浮かぶ。とはいえ、顔は分かるが名前が消えてしまった人物もかなりいるのだが。
あれほど毎日顔を合わせていたにもかかわらず、何をどうしたら記憶から抜け落ちるのか、自分のことながら理解に苦しむ。
ちなみに、久しぶりに連絡をくれた友人のことを、私が覚えていたのには理由がある。Facebookで繋がっていたということもあるが、それよりなにより、彼女の「タイポ技術」が絶妙すぎたからだ。
タイポとは、キーボードのタイプミスの俗語。高校時代、彼女はたった一文字の間違いで、すべてを笑いに変えるほどの秀逸なタイポをみせた。
「いまヘブン」
おいおい、死んでしまったのか?セブンをヘブンとタイポしただけだが、天と地ほどの差がある場所にいるではないか。
残念ながら、私はまだそこへは行けない。
「わかんまい」
とてもじゃないが、分かりそうにない返事である。同じ「分からない」でも、こう言われたほうが肩の力が抜けてトラブルに発展しなさそうだ。
そんなタイポ名人から、とんでもない昔話を聞かされた。
「あの頃、URABEから偽造テレカを買ってたよね」
・・・なんだそれ?偽造テレカ??
当時、ポケベルから携帯電話やPHSへの過渡期だったが、高校生の身分ではまだポケベルが主流だった。そのため、街中の公衆電話でタカタカと指を走らせ、どうでもいいメッセージを送っては楽しんでいた。
その際に必要となるのが、小銭またはテレホンカードだ。しかし10円玉をジャラジャラ持ち歩くのはナンセンスであることから、テレホンカードを持参するのが標準装備となっていた。
そのテレホンカードに「偽造版」というものがあった。通話時間によってカードに記載された数字(残量を示す)に穴があき、最後に「0」まで穴があくとカードは終了となる。
ところが、ある時から偽造テレカなるものが登場した。当然、偽造なので犯罪である。しかし中高生にとっては、偽造テレカに対する犯罪意識など皆無どころか、ポケベル世代を支える救世主でもあった。
どのようにして偽造テレカを作るのかというと、パンチで穴のあいたテレホンカードに、鉛のテープのようなものを貼って穴を塞ぐだけ。
これだけで、使い古しのテレホンカードが見事に蘇るのだ。
実際のところ、偽造テレカの作製にどれほどの技術力が必要なのかは分からない。だが切ったり貼ったりするだけとはいえ、そこそこのキャリアは必要だろう。
にもかかわらず、田舎の普通科高校に通う私が、どうやって偽造テレカを作製または入手していたのだろうか。
すると友人が、
「なんか、上野がどーたらこーたら言ってた気がする」
と教えてくれた。ということは自作ではなく、上野にはびこるイラン人あたりから購入していたのか――。
しかし、長野に住む私がわざわざ上野まで出向いて偽造テレカを入手し、長野で売りさばいていたというのは俄かに信じがたい。そもそも、そんな記憶は一ミリも残っていないのだから。
「値段も覚えてるよ。10枚1,000円だった笑」
なんだと!!10人に売りさばけば1万円じゃないか!!その前に、私はイラン人からいくらで購入していたのだ?!
往復の新幹線代を考慮すると、大した儲けにはならなかっただろう。
だがそれよりも、現に私から偽造テレカを購入したと言っている友人がいるわけで、そんな記憶は微塵もない私と、値段まで鮮明に覚えている友人とで、どちらの話が事実なんだ――。
*
青春時代の記憶とは、甘酸っぱいセピア色ゆえに、不鮮明で不明瞭なのである。
ダメだ、「いまヘブン」で爆笑🤣🤣
だろ?www