天下の謝罪将軍

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私が友人を選ぶルールは、「私に足りないものを持っていること」が基準となる。

たとえば容姿端麗・眉目秀麗だったり、あるいは頭脳明晰だったりと、他人に自慢できる優れた人物を、好んで「友人」と呼んでいる。

 

だが本日の友人は、見た目も頭も凡庸。どちらかというといじられキャラのため、私にとってなんの得もない男である。

 

そんな友人は代議士をしている。とはいえ我々の出会いは、奴が政治の世界に足を踏み入れる前であり、かつては苦楽を共にした同志でもあった。

奴の素晴らしいところは、温室育ちの坊ちゃんゆえに、トゲトゲしていないことだ。さらに、仲間からくそみそに叩かれても「エヘヘ」と、薄っぺらい笑顔でかわせる精神力は尊敬に値する。

そんな友人は、仕事でもプライベートでも失敗を繰り返すわりには、なぜか丸く収まることが多い。その結果、生粋の甘ちゃん野郎はなぜか、上手にこの世を渡り歩いているのである。

 

「謝ることなら任せてくれ!」

 

目を輝かせながらこう言い放つ友人。

奴の強みは、謝罪の上手さにあると分析する。まずは相手の話を親身になって「なるほど、なるほど」と聞きまくる。ときに目を閉じたり眉間にしわを寄せたり、あるいは腕を組み神妙な面持ちをチラつかせながら、遮ることなく話を聞く。

そして最後は、ボンボン特有の上質な苦悩の表情を浮かべながら、

「それはまことに、申し訳ございませんでした」

と頭を下げるのだ。

 

この謝罪の完成度、いや、クオリティは高い。文字にすれば同じ言葉だが、温室育ちのボンボンが顔を陰らせながら、美しいキューティクルを見せつけるかのように平身低頭するのだから、謝罪を受けた側は悪い気がしない。

醜く肥えた下衆なカス野郎が同じことをしたならば、相手は「バカにしてるのか!?」と、さらに激怒するだろう。だが、持って生まれた「育ちの良さ」という武器を、惜しみなく使いこなす友人は謝罪の天才といえる。

 

所詮、政治家など謝れてなんぼ。頭を下げることに大した躊躇もないわけで、それはもはや職業病の域である。そして、どうせやるなら質の高い謝罪を展開するほうが効果的であり、役者の資質が問われるということだ。

 

「最初はショックだったし、なんで俺がこんな目にあわなきゃならないんだと悔しかった。でも、少しは慣れたのかな」

 

友人が正直な気持ちを吐露してくれた。

私を含む民間人の多くは、政治家や公務員を敵視する傾向にある。職務上、彼らが反論できないのをいいことに、役所で暴言を吐いたり演説をする弁士に罵声を浴びせたり、やりたい放題に無礼を振る舞う。

その結果、政治家も公務員もいつの間にか自動的にバリアを張るようになる。そういう「損な役回り」を演じているのだと、自ら思い込むことで、怒りや悲しみといった負の感情を抑え込む術を身につけるのだ。

 

とはいえ、政治家は役者ではないので、完全なる演技による謝罪というのは難しい。どこかで割り切りつつも、まぁそういう側面もあるよな…と、同情と諦めを込めた謝罪の言葉を述べるのだ。

自分が悪いわけではないが、誰かが謝らなければ終わらないわけで、その役回りがたまたま自分である、というだけのこと。そしてそれこそが、公に謝罪をする意味であり、政治家の職責である――。

あぁ、なんと哀れな職業だろうか。

 

というわけで、うちの会社でもリスクマネジメントとして、謝罪のプロである代議士を雇用してはどうかと、仲間の弁護士に相談をする。

「実際に仕事をしてない人間が謝って済むほど、軽い仕事はしていない」

「代表者でもないのに、謝罪だけの人材なんて出番はないだろう」

あまりにももっともすぎる答えが返ってきた。たしかにその通りである。返す言葉も見つからないし、多忙な弁護士の貴重な時間を無駄遣いしたことに、心の底から謝りたい。

 

ちなみに私は会社の代表を務めているが、主な仕事は「謝罪」である。代議士でもないのに、これまで何度となく謝罪をしてきた。己のミスではなくとも、会社の代表者ということで地面に頭をこすりつけ、全身全霊で謝罪した。

そして私は、もう二度と謝罪などしたくない。謝罪をする前に、しっかりと仕事をこなしたい。真摯に職務をまっとうすれば、ミスも起きずに謝罪の必要もないのだから。

 

というわけで、「謝罪将軍」の雇用は見送られたのであった。

 

サムネイル by 希鳳

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