金色と銀色の鮮やかな彩りのフットネイルを見降ろしながら、わたしはどうにかしてこの”女子力”をアピールしたいと考えた。
(やはり、足元の露出度が高いビーチサンダルがいいだろう)
ビーチサンダルといっても、わたしが持っているのは「リカバリーサンダル」なので、浜辺でキャッキャするような用途のものではない。なんといってもこれは、腰や膝への負担を軽減する目的のフットウェアで、座っているより立っているほうがむしろ楽・・といえるほど、わたしのQOLを上げてくれる逸品なのである。
そんな、お気に入りのリカバリーサンダルで出掛けたい気持ちは満々なのだが、いかんせん天気がよくない。まだ外へ一歩も出ていないが、出るまでもなくブラインド越しに確認できる、明らかな曇天模様。あわよくば雨でも降りだすんじゃないか・・というほど、日差しは一ミリも確認できないのだ。
(こういう時は、奴に聞くしかない)
というわけで、わたしが知る中で誰よりも早く「短パンTシャツ裸足サンダル」を実践したオトコに、”本日、外出するにあたりビーチサンダルで大丈夫か”というお伺いを立ててみたところ、間髪入れずに「ダメ、寒い」という返信があった。
(マジか・・こいつに「寒い」と言わせるほどの寒さなのか、今日は)
しかも続けて「危ない」というワードまで送られてきた——これは相当な寒さとみた。
だがわたしにとって、このゴールドとシルバーのフットネイルを誇示するべく、つま先が見える履き物・・つまり、ビーチサンダルというかリカバリーサンダルを履かなければならない状況は変わらず、つま先の見えない履き物や、靴下を履いてのサンダルでは意味がない。うぅむ、果たしてどうするべきか・・。
その時、ふと妙案が浮かんだ。ビーチサンダルは肌の露出が高い。ならば、少しでも露出を抑えたサンダルにすれば、寒さを凌げるのではなかろうか——。
そこで再び、「ビルケンのサンダルならばどうか?」という質問を投げてみたところ、
「寒い。なぜなら、Tシャツ短パンにシャワーサンダルの俺が失敗しているから」
という、圧巻の回答があった。
さすがにこれには吹き出してしまった。外に出ずともなんとなく寒いであろうことは想像がつくのに、わんぱくな小学生でもあるまいに真夏の装いで家を出るとは、なかなかの無鉄砲・・いや、メンタル強者。
さすがにわたしは、長ズボンにサンダル・・と考えていたが、その妥協案についても「寒さは末端から」と一蹴されてしまった。だがその直後、「でも、長ズボンならサンダルでも大丈夫かな・・」と、揺れる男心が垣間見えたのだ。
(よし、長ズボンにビルケンシュトックで決まりだ!)
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こうして、長袖長ズボンにつま先が出るサンダルで家を出たわたしは、最寄り駅へたどり着く手前で、手足の指先が紫色になっていることに気がついた——そう、やはり寒かったのだ。
電車に乗ろうがカフェに入ろうが、チェックするのは他人の足元のみ。ミニスカートで太ももまで惜しみなく露出している女子ですら、スニーカーやヒールといったつま先の見えない靴を履く徹底ぶり。
先ほどから何十人・・いや、何百人と行きかう人々を観察しているが、ただの一人もサンダルはいない。半袖短パンで汗ばんでいる外国人ですら、ランニングシューズで足元を固めているわけで、これは一体どういうことなんだ。
とはいえ、白銀のゲレンデのようなシルバーが光る右足と、熟成したドン・ペリニヨンのようなゴールドの左足を備えているこのわたしが、寒さに震えていたのでは格好がつかない。ここは堂々と、季節先取りのオシャレさんらしい雰囲気を醸し出していかなければ——。
(にしても、頭寒足熱とはよく言ったもんだ。おぉ、さむっ・・・)
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何はともあれ、これ以上の寒さに震えるのは御免なので、ここ(カフェ)から出たくないわたしなのであった。
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