ジャイアニズム承継者

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(あれ・・・わたしってジャイアンか?)

ふと、そんな考えがよぎった。当たり前の如く伸ばした手を見ながら、そう思ったのである。

 

 

「お土産買ってきたんです・・これ」

そう言いながらガサゴソとバッグを漁る友人。大きな紙袋の中から現れたのは「お抹茶ショコラ」だった。

——抹茶といえばわたしだ。抹茶の申し子として日々暗躍するわたしの体内には、抹茶色の血が流れているといっても過言ではない。そんなわたしの趣味嗜好をしっかり把握している友人は、見事な土産品を選んできたわけだ。

 

「おぉ、ありがとう」

そう言いながら、お抹茶ショコラを箱ごと奪おうとしたところ、「あ・・ちょっと待って」と言いながら慌てて菓子を引っ込める友人——なんだ?わたしへの土産じゃないのか??

「えっと、これはこうして・・」

そう言いながら、おもむろにお抹茶ショコラの包装紙を破り始めた。——あぁ、わたしが取りやすいように開封してくれたのか。そんな気を使わなくたって、どうせすぐに胃袋へ送り込まれるのに。

 

そこでわたしは、横一列に並んだお抹茶ショコラ10個を、端から端まで鷲掴みにして持ち上げた。

「ああーっ、ちょ、ちょっと待って!」

悲鳴をあげながら、友人が必至に妨害する——チッ、なんなんだよ。まさか"お抹茶ショコラをあーんしてあげる"とか言い出すんじゃねぇだろうな。

「あの、よかったら一つ取ってください。そして私も一つもらって・・」

そう言いながら、友人はその場にいたもう一人のオンナに向かって、菓子の入った箱を差し出したのだ。——はうっ!!わ、わたしの抹茶がぁぁ!!

 

その後、彼女は

「で、この残りを全部あげますよ」

と言って、二つ足りないお抹茶ショコラの箱をわたしに手渡してきたのだ。要するに、みんなに配る目的で購入した土産品だが、中でも食の好みにうるさいわたしに合わせて抹茶味を選んだ・・というわけか。

だがわたしは、「抹茶といえばわたしなのだから、さほど抹茶好きでもないオマエらが食べる必要もないだろう」と思っていた。大好物を他人に分け与えるほど、優しい気持ちなど微塵も持ち合わせていないわけで。

 

・・とその時、ふと思ったのだ——なんかこの考えって、ジャイアンみたいだな。

 

「お前のものは俺のもの、俺のものは俺のものだ!」

ジャイアニズムの象徴ともいえる発言だが、実際には感動秘話から誕生した名台詞で、単純に字面だけでは共感しえない愛がある。なんせ、この回のストーリーは、

"入学式の帰りにランドセルをなくしたのび太は、当然ながら探し出すことができない。そんなのび太の代わりに、ジャイアンが泥だらけになってランドセルを取り戻してくれたのだ。その時にのび太が「なんでここまでしてくれたの?」とジャイアンに尋ねたところ、「だって、お前のものは俺のもの、俺のものは俺のものだ!」と、ジャイアンが答えた"

・・というものだ。かの発言だけを聞けばとんでもない横暴な野郎だが、この内容を聞くと目頭が熱くなる。

 

——おっと、こういういい話は置いておいて、わたしは単純に言葉の意味だけをとって言っているのだ。

わたしの大好物である抹茶の菓子が、目の前で他人の手に渡ってしまったわけで、なぜ全部を手に入れることができなかったのか、悔しさがこみ上げてくる。

(あいつらの物はわたしの物・・・)

 

 

いやいや、ちょっと待て。そもそも友人の厚意で賜れた土産物、かつ、あえてわたしの好物である抹茶味を選んでもらったにもかかわらず、他人の分まで奪おう・・という腐った根性はいかがなものか。

しかもそれを疑問に思わず、「なぜ二つ減ってしまったのだ!」などと不服を口にするとは、いったい何様のつもりか。

 

(・・とはいえ、抹茶の菓子はやっぱりわたしの物だ!)

 

わたしこそがリアル・ジャイアンなのかもしれない。

 

Illustrated by 希鳳

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